音楽やマンガなど、圧倒的な熱量を注ぐ「好きなもの」をおもちの方に、こだわりの住まいをご紹介いただく本企画「趣味と家」。第9回目は、縁側が好きすぎて縁側のある家を建てた、縁側愛好家・成瀬夏実さんに寄稿いただきました。最初は古民家をリノベーションするつもりだったそうですが、「縁側」と「快適な暮らし」を突き詰めた結果、最終的に選んだのは「注文住宅」。縁側といえば古民家、という思いが強かった成瀬さんの気持ちに、どんな変化があったのでしょうか。
みなさん、こんにちは。縁側愛好家の成瀬夏実です。
座ると癒やされるだけでなく、日本の四季を感じられたり、時代によってつくりが異なったりと、さまざまな魅力を持つ縁側に惹かれ、これまで日本全国の縁側を約170軒分ほど巡ってきた私。
たくさんの縁側を見ていくうちに自然と「縁側のある家」に住みたい願望がふつふつと湧き、2020年に縁側付きの戸建てを鎌倉に建てました。私に感化され、同じく縁側好きになった夫と、2人の子どもと一緒に暮らしています。
しかし「古民家の縁側」が好みだったこともあり、最初は古民家をリノベーションをするつもりでした。そんな私が注文住宅を選んだのは、ひとえに「理想の縁側」を実現したいという思いから。
今回は、わが家を例に縁側のある家の魅力をお伝えするとともに、なぜ「リノベーションではなく新築」を選んだのかについても紹介したいと思います。
【目次】
- 方角や形にこだわった「理想の縁側」で四季を満喫
- 高性能な家の魅力を知り、古民家リノベから「新築」へ気持ちが変わる
- ライバルが多い鎌倉で数カ月にわたる土地探し。条件を変えて何度も訪問
- 北欧風のデザインに「和」を足して、縁側の似合う家に
方角や形にこだわった「理想の縁側」で四季を満喫
縁側のある家に暮らしはじめて1年がたち、実感したのは「縁側は四季が満喫できる」ということ。
春夏秋冬、それぞれ違った過ごし方が楽しめます。
春はポカポカ陽気の中、縁側から見える桜を眺めたり。
夏は蚊取り線香を傍らに、スイカを食べたり、ビールを飲んだり。少し涼しくなった夜にアイスを食べるのも最高。
秋は七輪を出してサンマを焼いたり、お月見をしたり(子どもたちが食べているのは雪見だいふくだけど)。
そして、私が一番好きなのは「冬」。意外かもしれないですが、わが家の縁側は南向きなので、冬でも日中はすごく温かくて気持ちいいんです。
南向きの縁側は、私の「理想の縁側」には欠かせない条件の一つでした。
そして最もこだわったのが「L字型」にすること。
私は、縁側がその魅力を一番を発揮するのは「誰かと座ってゆっくり話している時間」だと思っています(もちろん一人でのんびり過ごす時間も好き)。
直線型の縁側だと横一列にしか並べませんが、L字型にすることで顔を合わせて話すことができるんです。それがすごく良くて。
わが家の縁側に座って話した友人は、みんな口をそろえて「縁側っていいね〜」と言ってくれます。縁側の良さが伝わっていると思うと、とってもうれしい。
そしてもう一つのこだわりは、何年たっても「縁側に出たい、座りたい」と思える場所にすること。
私は「外縁(ぬれ縁)」と呼ばれる屋外タイプの縁側をつくりたいと思っていたので、どうしてもネックになるのが腐食。もともと面倒くさがりな性格ということもあり、縁側の手入れにはハードルの高さを感じていました。
せっかく縁側のある家を建てるのに、縁側が廃れて、だんだん出るのが億劫になって……となってはもったいない。こだわった「理想の縁側」だからこそ、長く楽しめる場所にしたい。
なにかいい方法はないかと探し、見つけたのが「緑の柱」と呼ばれる木材でした。国産のむく材に薬液の加圧注入処理することで防腐・防蟻効果を長期間持続させるというもので、「柱」の名のとおり、本来は木造住宅の構造材として使用されています。
この緑の柱をカット・塗装し、極力ケアせずともきれいに保てる縁側を実現したのです。
まだ住みはじめて1年弱ではありますが、塗装が少し落ちたかな? というくらいで、まったく手入れしていなくても特に劣化した様子はありません。
思わぬところで「縁側があってよかった」と感じることもありました。
それは、新型コロナウイルスの影響でテレワークになったこと。
縁側付きの家を建てよう!と決意した頃には想像できなかったほど家で過ごす時間が多くなりましたが、お昼を食べたり、おやつの時間に休憩したりと、家にこもって仕事をする中でも縁側をちょっとした気分転換のスポットとして活用し、気軽に気持ちを切り替えています。
日光を浴びるとセロトニンが分泌されストレスが緩和するという話はよく聞きますが、まさにその効果を実感しています。
高性能な家の魅力を知り、古民家リノベから「新築」へ気持ちが変わる
築100年の古民家を改装しており、とっても素敵な雰囲気
ところで、縁側といえば古民家をイメージする方は多いのではないでしょうか。
いくつもの素敵な縁側を見てきた私も、いい縁側のある家=古民家というイメージが強く、冒頭に書いたとおり、最初はぼんやりと「古民家をリノベーションして住みたい」と考えていました。
実際、持ち家を検討する前から、リノベ済み古民家の賃貸物件を内見したりもしていたのですが、どうにもしっくりこない。
何年も掛けてたくさんの縁側を見すぎたせいで、縁側への理想が膨れ上がっていた私に、ピン! とくる物件(縁側)なんて、そうそう見つからなかったのです。
また、わが家は私も夫も効率や利便性を重視する性格。気密性が低い、虫が出やすい、築年数がたっておりこまめな手入れが必要……などが懸念の古民家で、小さな子ども2人を育てながら暮らすのは正直、勇気が入ります。冬、ぜったい寒い。
そんな中、出会ったのが高気密・高断熱を強みとするハウスメーカーでした。
当時はまだ古民家リノベの可能性も捨てきっていませんでしたが、寒い冬の日にモデルハウスに試泊したところ、エアコンが1台しかないのに全館空調システムで暖かく、それでいて湿度は60%を保つ過ごしやすさにとても驚きました。
また、新築で素敵な縁側のある家を建てた方のおうちにお邪魔したのも、「古民家じゃなくてもいいじゃん」と考えるきっかけに。
一連の出来事で、私は古民家も好きだけど「縁側そのものがある空間が好き」なのだと改めて気付かされました。
「理想の縁側」と「家族みんなが快適な暮らし」。その2つを実現するためなら、そしてこのハウスメーカーなら注文住宅を建ててもいいなと思い、土地探しをはじめました。
ライバルが多い鎌倉で数カ月にわたる土地探し。条件を変えて何度も訪問
もともと東京都心に住んでいた私たち家族ですが「いつか古民家に住みたいから、古民家が多い街に引越したい」という考えのもと、2018年ごろにはすでに鎌倉に移住していました。
住み慣れてきたし、子どもの学区も気になるし、古民家リノベではなく注文住宅を建てると決めてからも「鎌倉から出ない」はマスト条件。
しかし、移住前に賃貸物件を探すときも実感しましたが、鎌倉は「なかなか物件に出合えない街」です。
何せライバルが多い。全国的によく知られている人気の街なので、鎌倉で暮らすことに憧れる人たちがたくさん移住してきます。
ましてや土地探しとなると、まずは鎌倉内の賃貸物件に引越し、住みながら探すというケースもザラ。
私の友人にも鎌倉に住みながら、5年かけて土地を見つけたという人がいます。それくらいみんな狙っている地域。
プラス、海も山も近い地域なので津波、洪水、土砂災害などの恐れがないか、ハザードマップの確認も欠かせません。
アクセス、価格、安全性。全てをかなえようと思うと、土地選びは難航を極めます。
私たちの場合、このハウスメーカーでこういう家を建てたい! という希望がはっきりしていたため、家そのもの(上物)にかかる金額が大体わかっており、「土地に使える予算」も明確でした。
しかし予算内の土地となると、主要駅である鎌倉駅からは遠くなってしまい、暮らすには不便だし資産としても微妙。
予算外のところも含めて18カ所ほど見て回った結果、最終的にはアクセスの良さを最重要と考え「土地の予算はオーバーするが、価値が落ちづらい駅近の土地を購入する」ことにしました。最悪、ローンを返せない、ということになってもここなら売れるだろう、と思ったからです(笑)
予算オーバー分は、造作家具をオーダーしない、ドアなど建具のランクを下げるなど、家の“性能”以外の部分で細々とコストカットしました(それでも多少はオーバーしましたが……)。
そうして無事土地を購入したわけですが、もともとは早々に候補から外れた土地でした。
というのも、最初に訪れたのが曇りの日で、第一印象が良くなかったのです。その3カ月後、まだ売れていないことを知り、今度は晴れの日に訪れてみたら思いの外ピン! と来て、急いで夫に連絡してその日のうちにもう一度2人で見に行き、とんとん拍子で購入まで進みました。
決定打に欠けてなかなか土地を絞れなかったため「ここにも何かいいところがあるかもしれない」という思いで、朝/昼/夕、晴れ/曇り/雨など、時間帯や天候の条件を変えていろんな土地を見ていたのですが、そのおかげで今の家が建てられたと感じています。
北欧風のデザインに「和」を足して、縁側の似合う家に
最後に、わが家をもう少しだけ紹介します。予算カットで諦めたこともありますが、縁側以外にもいろんなこだわりを詰め込んでいます。
まず、床材はドイツのむく材を採用。壁は耐久性に優れて、調湿効果もある「ルナしっくい」というものを選びました。天井と壁の一部には木材を張っています。
このあたりはすべて「北欧風のデザインをベースにしたい」という私たちの希望をもとに、設計士さんから提案をいただいたものをそのまま採用したのですが、とってもいい感じに仕上がって大満足しています。
また、縁側のある家ということで要所要所に「和」のテイストも取り入れました。
例えばリビングには琉球畳を敷いて、今っぽさを出しつつ……
縁側に面している和室は昔ながらの畳に。メンテナンスのことを考え、い草ではなく耐久性が高い和紙の畳にしました。畳のあの香りがしないのはちょっぴり寂しいですが、長く使えるものを選びました。
ちなみにこの部屋はゲストルームも兼ねていて、来客が部屋から洗面所とお風呂に行きやすい動線になっています(詳しくは記事冒頭の間取図をどうぞ)。
また、縁側に面した和室やリビングには、カーテンではなく和紙のプリーツスクリーンを取り入れています。
あとは年をとった時のために、1階だけでも暮らしが完結するようにしたのもこだわり。
洗面台には、モザイクタイルで有名な多治見タイルを採用。以前からInstagramでフォローしていたタイル屋さんがあり、もし家をつくることがあればここに頼みたい! と考えていたので、夢が実現して大満足です。
もう一つ気に入っているのが、アイランドキッチン。一目惚れしたウッドワンの「スイージー」シリーズです。
予算オーバーでしたが、毎日使うところは妥協したくない……と3カ月悩んで決めました。
「理想の縁側をつくりたい!」という思いからスタートしたわが家の家づくり。少しずつ完成に近づくなかで、実感したのは「いろんな制約がある」ということでした。
土地探しで悩んだアクセスや予算もそうですし、性能を高めるにはここはケチれない、見た目が悪くなるけど耐震構造上の理由でここに柱をつくらなくてはいけない……などなど、思い通りにいかないことは何度もありました。
それでも、自分の好きなものをそろえて、自分たちにフィットしたライフスタイルを実現できるのが注文住宅のいいところ。
頑張ったからこそ実現した、理想の縁側がある家とそこでの暮らしを、これからも楽しんでいけたらいいなと思います。
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著者:成瀬夏実
鎌倉在住のライター/PRやSNS運用など。縁側に特化したウェブメディア「縁側なび」を運営。全国の縁側を170軒見た。3歳と5歳の2児の母。
サイト:縁側なび Twitter:@natsumi_0285
編集:はてな編集部