職業柄、「よりよいもの」や「よりよい環境」を求める方が多いエンジニア。そんなエンジニアの「家づくり」にはきっと、さまざまなこだわりが詰め込まれているはず。
「エンジニア、家を建てる」第5回は、埼玉県戸田市に戸建てを建てた、とよしまさんに寄稿いただきました。
もともと賃貸マンションで夫婦と子ども4人の6人家族で暮らしていたとよしまさんが40代半ばで建てたのは、パートナーのご両親との2世帯住宅。趣味を充実させるため、仕事に集中するため、家族のプライベートな空間を確保するため……「注文住宅だからこそ」徹底的にこだわり抜いたといいます。
こんにちは。都内の外資系テックカンパニーでソフトウェアエンジニアをしている、とよしまです。マンガ家の妻と4人の子どもとの6人家族です。
私たち夫婦は最初の子どもが生まれた16年ほど前から、川崎市にある3DKの賃貸マンションで暮らしていました。
子どもが増えるにつれて、だんだんと手狭さを感じるようになっていましたが、学校や習い事など生活が地域に根を張ってしまい、子どものことを考えるとなかなか引越しできず……。
しかしながら3人目の子どもが生まれたことで「いよいよ賃貸だともう無理だね」という話を夫婦でするようになり、なるべく子どもに負担をかけないよう、4人の子どもたちを転校・転園させずに済む「2022年の春」を目指し、数年前から準備を進めてきたのです。
当初は都内で土地を探していましたが、妻の実家からたびたび声がかかったこともあり、最終的には埼玉県で2世帯住宅を建てることになりました。
親世帯2人、私たち夫婦、子ども4人という大所帯が暮らす大きな家。「せっかくなら賃貸ではできない家をつくろう」と考え、音楽スタジオ、仕事部屋、内装……などなど、「好き」を詰め込んだ注文住宅ならではの家にしました。
今回は私たち家族の家へのこだわりを紹介していこうと思います。
わが家の「スペック」
- 竣工年月:2022年4月
- 家族構成:8人(親世帯2人、夫婦+子ども4人)
- エリア:埼玉県戸田市
- 最寄り駅までの距離:徒歩7分
- 土地、建物の広さ: 土地258.74㎡(78.27坪)、建物(延床)297.79㎡(90.08坪)
- 部屋数:1階は2SLDK(親世帯)+音楽スタジオ、2階は6SLDK(子世帯)
〜 私の家づくり3カ条 〜
🏠 「賃貸ではできない家」をつくる
🏠 家族のプライベートな空間を大切にする
🏠 いろいろな人とつながる拠点にする
【目次】
- 趣味の音楽を楽しむため「最高クラスの防音スタジオ」をつくる
- オフィス環境に似せた仕事部屋。集中力が途切れない工夫も
- 4人の子ども全員に「1人の空間」を
- 他にもある外構・内装のこだわり
- 湿気、引越し……家をつくって初めてわかったこと
- 「個の空間」を大事にしながらも、「人のつながり」も感じられる拠点に
趣味の音楽を楽しむため「最高クラスの防音スタジオ」をつくる
家を建てるなら、家族や友人らと演奏を楽しめる「防音スタジオ」は必須と考えていました。
というのも、私の趣味はピアノやバンド活動。特にバンドは大学生の頃からアニメ・ゲーム系のジャンルで活動していて、今まで一緒に演奏してきた仲間の中にはプロのミュージシャンになったメンバーもいます。
「趣味の域」ではありますが、音楽は私の人生の一部と言っていいほど思い入れがあります。
長女もバンド活動に興味を持つ年頃に成長しましたし、その下の子どもたちもみんな音楽教室に通っているので、戸建て計画は防音スタジオを実現する絶好のタイミングでした。妻には「ピアノを習うと賢くなるから!」と言いながら、いつか「スタジオをつくろう」と言ったときに賛成してくれる仲間を育ててきたかいがありました。
もともと都内で建てるつもりだったのが埼玉になり、土地の広さにも少し余裕ができたため、かなり欲張って「グランドピアノが置けて、バンド練習もできるスタジオ」を目標に設計しました。
グランドピアノはこの家を建てるにあたり購入したのですが、搬入経路の確保が必要なため、事前に購入するピアノの型番を伝え、玄関や廊下の設計に反映してもらっています。
また、仕事で遅くなった深夜にバンド演奏ができるように、最高クラスの防音を目指しました。防音スタジオは演奏する楽器によって目指すべき遮音性能が異なるのですが、今回はバンドで最も大きい音を出すドラムに合わせて「D-70」という値の遮音性能を目指しました(ピアノだとD-50〜D-55程度でOK)。
一般的に防音スタジオは部屋の中に部屋をつくる浮き床構造でつくられており、わが家も同様に設計。今回は家全体の設計を依頼したハウスメーカーではなく、都心の防音室を数多く手掛けている防音設計専門の会社に依頼しましたが、グランドピアノとバンド演奏という方向性の異なる利用目的が混在していたため、音響設計には苦心していたようです。
また、1階は親世帯の居住空間でもあるため、睡眠などの妨げにならないようレイアウトで工夫をしています。
スタジオと1階の洋室(親世帯が寝室として使用)、LDKなどの居住空間との間には、楽器庫や水回りの設備を設けており、これらも防音に役立っています。実際、深夜にドラムの練習をすることも多いのですが、寝ていても聞こえず、スタジオの横にあるトイレで耳を澄ますと「何か演奏しているかも」とわかる程度だそうです。
ちなみにスタジオの真上は私の仕事部屋ですが、家族が演奏しているときに音が聞こえてきたことはありません。
オフィス環境に似せた仕事部屋。集中力が途切れない工夫も
新型コロナウイルスの流行により始まったリモートワーク。現在は出社とリモートの両方を取り入れるハイブリッドな働き方に移行中ですが、100%リモートワークだった賃貸時代はとても苦労していました。
そのためこの機に乗じて、オフィスに近い快適な仕事部屋をつくろうと理想の環境を追求しました。
勤めている会社の担当者に問い合わせて、机と椅子はオフィスと同じシリーズでそろえました。特にこだわったのは机。エンジニアは一日中机に向かう仕事なので、電動で高さが調節できて、スタンディングデスクとしても使えるものを選んでいます。
また、部屋から一歩出るとどうしても集中力が途切れてしまうことから、いつでも休憩できるよう、仕事部屋に小さめのキッチンを導入しました。
コーヒー、紅茶、日本茶を入れるための各種マシーンからワインセラーまで完備。難しいことを考えるときは飲み物を入れながら思考を整理し、何かをやり遂げたときには仕事後、ご褒美にアルコールを飲んでいます。
家のネットワークは仕事部屋に情報盤を置き、部屋の中は有線、家の中はGoogle Nest Wifiを使ってメッシュネットワークを組んでいます。
リビングのテレビの視聴はほとんどWi-Fi経由のYouTube、Amazon Prime、Netflixといったオンラインコンテンツで、家族もそれぞれの端末でインターネットにつないでいますが、同時にビデオ会議をしていても通信品質で問題になったことはありません。
Wi-Fiは2階全体とスタジオまで届いています。親世帯には別のゲストネットワークを用意していますが、回線自体は同じ回線で仕事部屋の情報盤につながっています。
部屋の本棚にもこだわりました。以前の部屋で散らばっていた本、泣く泣く押し入れに追いやられていた本もすべて収納できるよう、壁2面に本棚を造作しています。壁に埋め込んだしっかりとしたつくりなので、重い本も安心して置けます。
エンジニアの場合「紙の本は持たない」という人も多いかもしれませんが、私はやはり紙の本が好き。疲れたときは並んでいる背表紙を見渡したり、適当に1冊選んで椅子に寄りかかって読んだり。とても心が落ち着く時間なのです。
本と同じく、リラックスするために欠かせないのが「ゲーム」。
もともとゲームの仕事をしていた時期があったのですが、加えて電子工作も大好き。アーケード基板を集めて修理したり、周辺ツールを自作したりするうちに、気付けば自作したツールが世界中で販売されるようになったことも。
他にも古いゲーム機やパソコンなどもたくさん所有していたため、仕事部屋に倉庫を併設して、どうせなら一緒に……とこの機会にアーケードゲームの筐体も買ってしまいました。
4人の子ども全員に「1人の空間」を
マンガ家で芸術肌の妻と技術畑の私の間に生まれたためか、4人の子どもたちはそれぞれ個性が強めで、コミュニケーションが苦手なメンバーもいます。みんながストレスなく過ごせるよう、賃貸時代から個室の必要性を感じていました。
ただし4人それぞれに個室を与えるとなると、気になるのが部屋数の多さ。部屋をつなぐ廊下のスペースは最小限にし、各部屋にすぐアクセスできるよう無駄がないレイアウトにこだわりました。この整理された間取りはすごく気に入っているポイントです。
ちなみにわが家はうっかり者が多いため、廊下などの共有スペースは人感センサーで電気が消えるようにしています。
子どもたちの部屋に続く廊下の入り口にはアーチを設置。おしゃれ感を演出すると同時に、共有空間とプライベートな空間を区切る、ちょっとした心理的障壁にも。アーチの高さは工事担当さんと相談しながら最終調整し、狙い通りのものが完成したと思っています。
直線上に居室が並んでいるので、就寝前にこの廊下をのぞき込むと、扉の下から漏れた明かりで電気を消し忘れた部屋が確認できます。
ちなみに次男はまだ年少さんで1人の部屋を持つには早いため、今はリビングとつなげたスペースになっています。
独立したドアがあり、壁を1枚追加するだけで他の子ども部屋と同じサイズの部屋になるので、何年かしたら簡単な工事をすることになるでしょう。
LDKを起点に子ども部屋と反対側にある廊下は、洗面所と夫婦の寝室へ続きます。
洗面所の前は全員が行き来する場所なので、ボードを付けてゴミの収集日や町内会、学校行事の予定など家族で共有すべき情報を掲示しています。
夫婦の寝室は妻の好みでアレンジしてもらい、妻専用のスペースも設けました。
他にもある外構・内装のこだわり
外構や内装なども、デザイン面には妻のこだわりが詰まっています。あちこちからカタログを取り寄せて検討していたところ、素晴らしいコーディネーターさんを紹介していただき、私たちの要望をバランスよく取り入れた仕上がりになりました。
玄関の光る階段はしゃれた料亭みたいで、疲れて帰宅した際に暖かく迎えてくれます。
壁のタイルやカーテンなど、このへんのデザインも妻の好みが反映されています。
ほか、家事設備なども妻のこだわりが随所に。家の仕様を決めるにあたり集めたカタログは、40cmくらい積み上がっていました。
湿気、引越し……家をつくって初めてわかったこと
こうして完成したわが家にはおおむね満足していますが、何点か反省点もあります。
例えば空調。今まで廊下のないマンションで暮らしていたため、エアコンの届かない空間が夏場どういった状況になるか想像できておらず……(暑かった……)。
加えて川に近いからか湿気もあり、楽器庫など空調が届きづらい空間の湿度はかなり気になりました。楽器庫は空調のあるスタジオ内の一室につくった方が良かったかもしれません。
家づくりの話題からは少し離れますが、引越しの見積もりがどこも相場よりかなり高くて驚きました。時期や荷物の量などでも値段は変動しますが、戸建ては階段があるため、賃貸の引越しより高くなりがち。加えて、新築への荷物の運び込みはとてもデリケートな作業で通常の引越し以上に気を遣うので、多少高額でもワンランク上の会社にお願いした方が良いと思いました。
「個の空間」を大事にしながらも、「人のつながり」も感じられる拠点に
先ほども書いた通りわが家は人とのコミュニケーションが苦手なメンバーが多く、賃貸時代はコロナ禍による“おうち時間”で体調を崩したこともあったので、「個」の空間を重視した「心が安らぐような家づくり」を目指しました。
子どもは成長とともに学校での課題などに取り組む静かな時間が必要になってきますが、今までは乳幼児と同じ空間で生活していたために常に騒がしく、兄弟姉妹の間でも言い争いが絶えませんでした。
今でも下の子はリビングにいることが多くけんかも多いのですが、上の子たちが自分の部屋に戻って落ち着いて作業できるようになりました。誰かがリビングで電子ピアノやエレクトーンを演奏しても、他の兄弟姉妹の邪魔にならないのも良いですね。
また、新型コロナによる学級閉鎖などでリモートで授業を受けることが多かったタイミングでは、個別の部屋があるメリットの大きさを感じました。
一方で、人とコミュニケーションを取ることが好きなメンバーもいますし、家族それぞれが孤立することなく、友人や知人とも「つながれる拠点」になればいいとも考えていました。
例えばベランダは広めにとり、子ども用のプールを出したり、バーベキューを楽しんだりできるような空間にしました。
「埼玉」を選んだことで生まれた余裕のある空間は、来客があっても狭さを感じません。ハロウィンには一番積極的な次女が友達を呼んでパーティーを開きました。
今までは狭いスペースで家族みんなが暮らしていたため、子どもたちも気軽に友達を呼べる環境ではありませんでした。友達の家へ遊びに行くにも遠慮が生まれ、子どもたちの交友関係には良くない影響を与えていたのかな、と思います。
私自身も昔からの友人たちとスタジオでセッションをするのが一番の楽しみです。
周囲では好評で、私自身も今までのバンド仲間のみならず、会社の仲間から「実は楽器やってるので一緒に演奏しましょう」などと言ってもらえ、新しい友好の輪が広がっています。
よく働き、よく遊び、いろいろな人とつながりながら、個の空間や生活も大事にする。オンとオフが両方楽しめる家になればいいと思います。
🏠「エンジニア、家を建てる」アーカイブ🏠
●第1回:効率よく「時短」できる家
●第2回:仕事部屋もサウナも防音室もある家
●第3回:「川崎に住む」ことを最優先に建てた家
●第4回:戸建てで「何も考えない時間」を手に入れた
🏠趣味にこだわった注文住宅🏠
● 撮影スタジオを併設した注文住宅を建てた
● 映画に没頭できるシアタールームのある家
● キッチン2つと立ち呑みカウンターがある家
著者:とよしま
普段は仕事でウェブをよりよくするための仕組みを考えたり、ブラウザの実装をしたりするソフト屋さん。ゲーム業界でもいろいろお手伝いしてます。過去にはスパコン「京」のインターコネクトチップの設計をしていたことも。
Twitter:@toyoshim ブログ:とよしま語録
編集:はてな編集部