超高齢社会をむかえた現在の日本では、段差が少なく手すりなどを備えたバリアフリー住宅に関心をもたれる方は多いのではないでしょうか。バリアフリーの家は将来、高齢になったときだけではなく、子育て世帯にも優しい住宅だといわれます。
そこで、専門家として提言を続けてきたケアリングデザインアーキテクツ代表の吉田紗栄子さんにバリアフリー住宅を建てる際の注意点を伺いました。気になる補助金などお金の情報とともに紹介します。
バリアフリー住宅とは?
「バリアフリー住宅」という言葉をよく耳にしますが、人によって定義はあいまいだそうです。
吉田さんは、バリアフリー住宅とは本来、高齢者や障がいをもつ人が社会生活をしていく上で「物理的」「社会的」「制度的」「心理的」そして「情緒面での」障壁(バリア)を取り除くべく広い視野で考えられた住宅のことだといいます。
「平成7年に当時の建設省が『長寿社会対応住宅設計指針』を出し、いわゆるバリアフリー住宅の仕様が決まってきました。その中では『段差の解消』や『手すりの設置』といった一部の対策がバリアフリー対策として独り歩きした感がありますが、当初検討された背景を鑑みても、本来のバリアフリーの対象は、使う人の心理的な障壁解消も含めもっと幅広いものでした」(吉田さん、以下同)
一般的にバリアフリー対策として考えられている項目には以下のようなものがあげられます。これらは「介護保険制度に基づく高齢者住宅改修費用助成制度」や「住宅の品質確保の促進等に関する法律」で主に取り上げられている項目です。
- 手すりの取り付け
- 段差の解消
- 滑りの防止や移動を円滑にするための床や道路面の材料の変更
- 引き戸等への扉の取り替え
- 洋式便所等への便器の取り換え
- 車いすが通れる廊下の幅を確保する
新築時から将来のバリアフリー化を考えるメリット
吉田さんは、これからはバリアフリーという考え方の対象に高齢者や障がいをもつ人以外の人々も含めてはどうか、と提言しています。
さまざまな障壁(バリア)に対して住む人それぞれがストレスを極小化できる家は、誰にとっても住みやすい家になる可能性があります。
例えば、段差のないバリアフリー住宅は、妊婦さんにとっても優しい家です。階段に手すりがあると不慮の転落事故も防ぐことができ、小さい子どもをもつママにとっても子育てしやすい家だといえます。
「家は暮らしの器です。暮らしとは日々の小さなことの積み重ねです。小さなイライラを一つ一つ解決しておくことで、暮らしを豊かに安全・安心に営むことができます。例えば、ケガなどで自分が車いすの生活になったら、と想像してみましょう。動線がスムーズになるよう設計し、住まいが居心地のいい空間となることがバリアフリー住宅の第一歩です」
家を建てるときは、この発想を長期視点でもつことで自然とバリアフリーな家づくりができる、と吉田さんはいいます。
「若い世帯でも両親が年老いていくことや、自身の老後のことを考え、今からバリアフリー対応を検討しておくといいでしょう。最初からすべてのバリアフリー対策を施しておく必要はありませんが、段差解消や上り下りしやすい階段などは対応しておきたいものです。また、将来的なリフォームを考え、家の構造自体をバリアフリー化に備えて設計しておくこともオススメします」
バリアフリーとユニバーサルデザインの違いとは
バリアフリー住宅とユニバーサルデザイン住宅は、どちらも快適な暮らしを目指す点で共通しています。ただし、その対象や考え方に違いがあります。
バリアフリー住宅は、主に高齢者や障がい者など特定の人々を対象に、生活まわりの障壁を取り除くことが目的です。
一方、ユニバーサルデザイン住宅は、年齢や性別、身体能力に関係なく、全ての人が使いやすいデザインを追求します。
バリアフリー住宅では、段差の解消や手すりの設置など、具体的な対策が中心です。
これに対し、ユニバーサルデザイン住宅は、より広範囲な視点から、誰もが使いやすい空間や設備を考えます。例えば、多機能トイレや分かりやすいサイン表示なども含まれます。
バリアフリー住宅を建てるときに対応しておきたいこと
バリアフリー住宅の設計では、将来の生活変化を見据えた対応が不可欠です。具体的には、段差をなくしたり、手すりなどで階段の安全性を確保したりといった設計が考えられます。
階段の素材や傾斜、手すりの下地を用意し、廊下スペースは広めに設計しておくことがポイントです。トイレの配置や玄関アプローチにも配慮が必要です。
最初から段差を設けない
「建てた後に段差をなくすリフォームも可能ですが、最近の家では、廊下と各部屋の間の敷居などの段差を極力設けない設計が主流になっていると思います。高齢者対策、車いす対策としてだけではなく、段差が少なければ家族みんなにとって転倒による家の中でのけがの発生を防げます。段差がないとつまずかないだけでなく、掃除機をかけるときや掃除ロボットを使うときにも便利です」
老後のリフォームの際にも次の3エリアを可能な限り同じ階に集められるように、新築時から想定して構造をつくっておきましょう。特にキッチンや水まわりの改築は構造上の制約が出てくるため、ある程度、建てる前から想定しておくことが必要です。
■昼間生活する場所:居間、ダイニング、キッチン
■夜生活する場所:寝室
■水まわり:トイレ、洗面、浴室
家の大きさや住む人数によっては、3エリアをすべて同じ階に集めることは困難なケースもあります。そういうときは、寝室とトイレだけは近くに設置しておくことがオススメです。
階段を危険な構造にしない
階段は建築基準法で定める主要構造の一つで、柱や梁などと同様、後から構造が変えにくいものの一つです。階段の位置を変えるといった大規模修繕工事は、場合によっては確認申請が必要になることもあります※し、仮住まいに引越さなければならないなど経済的負担も生じる可能性があります。
※2階建て以下の木造住宅であれば申請は不要です。(2025年3月まで)
また、階段は高齢者に限らず転落事故による大きなけがの原因となる場所です。なるべく傾斜の少ない階段になるような設計を依頼しましょう。
「特に階段で転倒しやすいのは曲がり部分の段板が三角形になっている箇所です。この位置を上階ではなく下階寄りに設置するように気をつけてください。
また、段と段の間は板でふさぎ、足を上げるときにつま先が引っ掛からないよう踏み面に出っ張りをつくらない形状にしましょう。一部だけでなく全面が滑りにくい材質の踏み面を選ぶとより安心です」
上下に改装可能なスペースを取っておく
寝室がスペースに制限があるなどの理由で2階から動かせない場合、将来、階段の上り下りがしづらくなったときに1階からの移動が困難になります。
「場合によってはホームエレベーターの設置を検討しなければならなくなるようなこともあるでしょう。年を取ったときのことを見越して、例えば、1階と2階の同じ場所で上下に納戸がそろっているような設計にしておくと、将来リフォームをするときにも融通がききます。また、吹抜けがあればそこを設置場所にすることもできます」
階段の手すりに下地を入れておく
将来、階段に手すりをつけることを想定し、手すりが必要となる部分に下地を入れておくこともオススメです。
「手すりの取り付けはどこにでもできるわけではありません。新築時に下地を入れておけば安心ですし、改修に手間がかかりません。階段に限らず、将来手すりを設けたい箇所、例えば玄関の上がり框(かまち)やトイレなど、動作が変わるところには下地を入れておきましょう」
廊下スペースを広めに取っておく
可能であれば、廊下スペースは広めに取っておきたいものです。
「広さとの兼ね合いですが、将来、車いすで移動することも考え、廊下はできるだけ狭くしないほうがいいでしょう。なお、車いすの移動を前提にした場合、廊下の手すりは必ず必要なわけではありません。例えば、背の低い家具を置いてつかまる場所として利用することもできます」
トイレの便器は廊下と平行につくっておく
元気なときには思い至らないのがトイレに介助が必要になった場合の不便さです。先に紹介したように、水まわりの改築は構造上の制限が出てくることも多いため、建てる前に将来のことも想定しておけるかどうかがポイントになります。
「便器の向きは廊下と平行にしておくことをオススメします。そうしておくと、介助が必要になったときには廊下の壁面を取り払えば廊下部分から介助することが可能になります。壁を取り払った後は、下の写真のように壁と一体化したタイプの扉を取り付けると便利です」
玄関へのアプローチは広くゆとりをもたせておく
駐車スペースからの動線や玄関に入るときの段差など、アプローチも配慮をしておきたい場所の一つです。
「アプローチも庭の一部と考え、少し迂回してでもゆったりしたアプローチを確保したいものです。アプローチの床材は雨に濡れても滑らないことが重要です。照明は、全体を均一に照らすよりも段のあるポイントを照らすようにすることで段差に注意しやすくなります」
バリアフリー住宅を建てた後でも対応できること
住宅を建てた後でもバリアフリー化に向けて対応できることがあります。例えば、転倒リスクを減らすため、手すりの設置や段差の解消が効果的です。階段には滑り止めを施し、つまずきを防止しましょう。トイレには介護に便利なスロップシンクやケア水栓を設置できます。
手すりの設置や段差の解消による転倒防止
バリアフリーにするためのリフォームとして、最もイメージしやすいのが、前述した手すりの設置と段差の解消ではないでしょうか。
「敷居などの段差をカットしたり、ミニスロープを入れるなどして、つまずいて転倒することを予防します。転んでも怪我しにくい柔らかい素材を床に敷くのもオススメです。これは高齢者のいる世帯だけでなく、小さい子どもやペットがいる世帯にも適しています。また、階段などに手すりを設け、転倒や転落を防ぎましょう」
階段の滑り、つまずき防止
建てる前に検討しておくべき構造にかかわる側面以外でも、階段の改修ポイントはあります。滑りやつまずきを回避するための方策です。
「比較的簡単に追加できるものとして、夜間のために下り口、上り口を照らす足元灯を追加で設置することをオススメします。階段では上るときより下りるときのほうに転倒事故が多く、それは上から見ると段差が分かりにくくなるからです。段がはっきり目立つように色の違う滑り止めを使うと効果的です」
トイレにスロップシンクやケア水栓を設置
「トイレに後から取り付けるものとして、汚れ物に対応できる底の深い『スロップシンク』という流しや、便器の給水管に取り付けて汚物を洗浄できるようにする『ケア水栓』という装置があります。これらがあればトイレを汚れ物の後始末もできる兼用設備にすることができて便利です」
最後に吉田さんは、自身が提唱する新しいバリアフリーの概念が社会全体に根付いてほしい、といいます。
「国民の3人に1人が高齢者になる2035年ごろにはバリアフリー住宅が当たり前になっているはずです。これから家を建てる人には、家族にも来客者にも過ごしやすいバリアフリーな家のかたちを探ってほしいと思います」
バリアフリー住宅の新築で知っておきたいお金情報。住宅ローンが有利に!?
バリアフリーの家を建てたり、バリアフリー仕様に改装したりする場合、一定の基準を満たせば資金面で有利になる制度があります。
住宅ローン金利が安くなる【フラット35】S
家を建てる際、多くの人が住宅ローンを組みますが、住宅ローンには、さまざまな種類があります。特定分野の住宅に関して一定の条件(技術基準)を満たした場合、フラット35の借入金利を一定期間引き下げる制度が【フラット35】Sです(2024年10月現在、年▲0.25~0.75%の優遇、予算金額に達する見込みの時点で募集受付終了)。
この、金利引き下げの対象となる4分野の中で「バリアフリー住宅」も対象になっており、満たすべき技術基準に応じて5年または10年間、金利が引き下げられます。
「バリアフリー性に優れた住宅」が満たすべき技術基準
- ZEH(金利引き下げ期間が当初5年間)
- 金利Aプラン(金利引き下げ期間が当初5年間):高齢者等配慮対策等級4以上(共同建て住宅の専用部分は等級3でも可)
- 金利Bプラン(金利引き下げ期間が当初5年間):高齢者等配慮対策等級3以上
この「高齢者等配慮対策等級」というのは、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」という法律に基づいて評価方法基準が規定されている等級です。部屋の配置や段差、階段などの各項目で各等級に定められた基準を満たす必要があり、住宅性能評価書を取得するか、所定の物件検査に合格しなければなりません。
参考:住宅金融支援機構【フラット35】ホームページより
その他にも、将来的にリフォームなどでバリアフリー対策を行った場合、次のような補助金や税制優遇措置があります。
- 介護保険制度に基づく高齢者住宅改修費用助成制度
- 高齢社会対策区市町村包括補助事業(住宅改善事業)(各地方公共団体)
- 所得税(投資型)の特例措置
- 所得税(ローン型)の特例措置 など
「介護保険制度に基づく高齢者住宅改修費用助成制度」で助成対象となる住宅改善
- 手すりの取り付け
- 段差の解消*
- 滑りの防止および移動の円滑化等のための床や道路面の材料の変更(*)
- 引き戸等への扉の取り替え
- 洋式便所等への便器の取り替え
- その他、これらの住宅改修に付帯して必要となる住宅改修
*玄関から道路までの(建物と一体でない)屋外の工事も支給可能
参考:厚生労働省の告示より
このように、将来を意識して最初からバリアフリー対策をしっかり考えた家づくりをしておけば、家族の日常生活においても安心に暮らせるでしょう。バリアフリー住宅を建てるなら、間取りや設備・仕様とあわせて、お金の面も含めてチェックをしておきましょう。
国や自治体の補助制度
バリアフリー住宅の普及を促進するため、国や自治体はさまざまな補助制度を設けています。
補助金・助成金の内容や条件は地域によって異なるため、建設予定地の自治体に直接問い合わせることをおすすめします。
また、専門家に相談すれば最新の制度や情報を把握しており、適切なアドバイスを提供してくれるでしょう。
補助金を活用することで、バリアフリー化にかかる費用を抑えられる可能性があります。ただし、申請期限や予算枠には注意が必要です。早めの情報収集と計画的な申請を心がけましょう。
住宅ローン減税、固定資産の減税制度
住宅の新築にはさまざまな補助金や助成金があり、住宅ローン減税(住宅ローン控除)がその最たるものです。住宅ローン減税を受けるにあたり「省エネ基準に適合するための条件」は、2024年1月以降に建築確認を受けた新築住宅であることです。国土交通省が定める省エネ基準に適合しないと、減税の対象外です。
また、質の良い住宅建設促進・居住水準向上などを目的とした「新築住宅に係る固定資産税額」が2分の1減額されます。(減額する期間は3年間、マンション等は5年間。適用期限:2026年3月31日)
「省エネ」とエネルギーをつくり出す「創エネ」の「ネット・ゼロ・エネルギーハウスZEH補助金」と新築住宅で使える「補助金・助成金制度」については、「バリアフリー住宅の間取りや補助金・助成金、トイレ、浴室、玄関など場所別のポイントを紹介」を参照してください。
「バリアフリー住宅」を建てた先輩たちの実例紹介
それでは、実際にバリアフリー住宅を建てた先輩の実例を見てみましょう。
【case1】両親と過ごすバリアフリーなレイクビューの家
「海なし県」の埼玉県にレイクビューの二世帯住宅を建てた越谷市のIさん。両親の居住スペースである1階は、シンプルなデザインのオールフラットのバリアフリー仕様。落ち着いた和室の漆喰の壁がお気に入りで、「じいじ」と「ばあば」はいつもお孫さんと過ごしています。
この実例をもっと詳しく→
カーテンを開けると「レイクビュー」。家族も猫も大満足、漆喰壁にこだわった家づくり
【case2】バリアフリーを意識した新婚夫婦の新居
船橋市の新婚Sさん夫妻の新居は、防音断熱性に優れ、2階にもトイレがあるそれぞれのプライベート空間を重視した家。「まだそんな年じゃないけど、将来を見据えて」段差が少ないバリアフリー仕様になっています。
この実例をもっと詳しく→
各部屋にウォークインクロゼットを設置、多趣味の新婚夫婦が暮らすマイホーム
スーモカウンターに相談してみよう
建築時に将来の生活を想定したバリアフリー住宅を設計すれば、小さな子どもや高齢の両親、急な傷病などの際にも安心ですが、実際にどのような点に配慮すればよいか分からない、という人もいるでしょう。
注文住宅の新築・建て替えをサポートしているスーモカウンターでは、家づくりの不安を解決できる無料講座や、アドバイザーに悩みを相談できる無料の個別相談などを実施しています。個別相談ではバリアフリー住宅の予算や希望条件の整理、建築会社の紹介など、注文住宅を建てる際のあらゆる不安について、知識と経験のある専任アドバイザーに無料で何度でも相談できます。
新築時に将来のバリアフリー化に備えておきたい人やバリアフリーの二世帯住宅を建てたい人は、スーモカウンターを活用して、家づくりの第一歩を踏み出してはみてはいかがでしょうか。
イラスト/ワタナベモトム
監修/SUUMO編集部(バリアフリーとユニバーサルデザインの違いとは、国や自治体の補助制度、住宅ローン減税、固定資産の減税制度)
一級建築士。一般社団法人ケアリングデザイン理事、有限会社ケアリングデザインアーキテクツ代表、NPO法人高齢社会の住まいをつくる会理事長。著書に「バリアフリー住まいをつくる物語」「自分らしく住むためのバリアフリー」(いずれも共著)などがある。JID賞インテリアスペース部門特別賞、住宅リフォーム・紛争処理支援センター第18回住まいのリフォームコンクール高齢者・障害者部門優秀賞など受賞歴も多数。