「平屋」という言葉を聞くと、広々とした敷地が必要だと思われがちですが、最近はコンパクトな平屋が注目を集めています。
しかし、「小さな家でも快適に過ごせるのだろうか」など、不安や疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。実は、コンパクトな平屋には光熱費の削減などのメリットが多く存在します。
この記事では、ヒロ建工の大石紀子さんにお話を伺い、コンパクトな平屋のメリット・デメリットについて解説します。コンパクトながらも暮らしやすい平屋の実例や間取りも紹介するので、ぜひ理想の家づくりのヒントにしてくださいね。
コンパクトな平屋とは?必要な広さや費用相場は?
コンパクトな平屋は、限られた敷地でも空間を有効活用できるのが特徴です。ここでは、具体的な間取りプランと予算の目安について詳しく見ていきましょう。
間取りと必要な延床面積の目安
コンパクトな平屋とは、実際にはどれくらいの規模の住まいになるのでしょうか。間取りと必要な面積の目安を解説します。
「コンパクトな平屋というと、1人から2人暮らしに適した1LDK、3〜4人家族に適した2LDKや3LDKの住まいが当てはまります。最低限必要な延床面積の目安は、1LDKなら16坪、2LDKなら18坪、3LDKなら24坪になります。また、二世帯住宅の場合は水まわりや玄関を共用にした間取りであればコンパクトな平屋でも実現可能です。ただし、家族の人数が5人以上の場合は延床面積が最低でも35坪以上はあった方が快適に暮らせるでしょう」(大石さん、以下同)
可能な間取り |
必要な延床面積(m2) |
1LDK |
16坪(52.99m2) |
2LDK |
18坪(59.62m2) |
3LDK |
24坪(79.50m2) |
ファミリー用のコンパクトな平屋を建てる場合は、最低でも18坪ほどの延床面積が必要
価格の目安
コンパクトな平屋を建てる際の建築費用の相場は、建築会社ごとに金額幅があります。また、建材や設備のグレードを上げたり複雑な間取りにすると建築費用は高くなる傾向になります。
「当社が手がけているコンパクトな平屋の本体価格を基準にお伝えすると、延床面積が16坪の平屋が1,500万円〜、22坪が1,700万円〜、26坪が2,000万円〜となります」
【実例付き】コンパクトな平屋の間取りを紹介
コンパクトな平屋の間取りは、限られたスペースを最大限に活用することが重要です。ここでは、実践的なプランニングのポイントを解説します。
2LDK
LDKと寝室、和室で構成された2LDKの平屋の間取りです。20坪の空間の中に生活に必要な機能がぎゅっと詰まっています。LDKから一直線に移動できるデッキスペースはアウトドアリビングとしても利用が可能。バーベキューや月見などアウトドアを楽しめる住まいです。
2LDK
コンパクトながらも、リゾートライクで快適な空間を実現した2LDKの平屋です。空間を仕切る壁を少なくしたことや、LDKに勾配天井を取り入れたことで空間に開放感をプラス。玄関からリビングにも直接アクセスできるため生活動線も便利です。玄関横には大容量のシューズクロークも設置しました。収納量も豊富で持ち物の管理がしやすい点も魅力の1つです。
3LDK
アメリカンビンテージをコンセプトにした3LDKの平屋です。限られた面積を有効活用するために廊下を極力減らし、LDKと子ども部屋、寝室、趣味部屋がつながる間取りになっています。家族の会話が増える住まいになりました。
コンパクトな平屋のメリットは?
コンパクトな平屋には、生活をより快適にするさまざまな利点があります。ここでは、どのようなメリットがあるのか詳しく紹介します。
家事動線や生活動線が短くなる
「コンパクトな平屋をつくる場合は、空間を有効活用するために通路を減らす傾向にあります。そのため家事動線や生活動線が短くなり、家事や移動がしやすい住まいになります。2階がないため上下移動がなく、生活が1階部分だけで完結する点も魅力です」
建築費用を抑えられる
平屋は、同じ延床面積の2階建てと比べると基礎や屋根の面積が広くなることから建築費用が高くなりがちですが、コンパクトな平屋であれば建築費用を抑えられます。
建物自体が小さいと、基礎や屋根の面積も小さくなるため、建材費や工事費が抑えられます。さらに、階段やバルコニーなどを付けないことも多く、その分のコストも節約が可能です。加えて、工期も短縮できるので、人件費の削減にもつながるでしょう。
バリアフリーな空間を実現しやすい
「ワンフロアでの生活になるため、高齢者や車椅子の方、小さなお子さんがいる家族にも平屋は人気です」
バリアフリーに特化した住まいにしたい場合は、スロープや手すりを設置したり、幅の広い引き戸を採用するという選択肢もあります。
また、近年は建て替えで平屋を選択する人も多いようです。上下移動のない平らな空間は、年齢を重ねても快適に暮らせます。
家族内のコミュニケーションが増える
コンパクトな平屋の間取りは、最低限の廊下で居室同士がゆるやかにつながっていることが多く、家族のコミュニケーションが取りやすい設計になっています。家族の気配を感じながら家事をしたり、子どもの姿を見守りやすい点はメリットといえます。
光熱費を抑えられる
コンパクトな平屋は、光熱費を削減できる住まいです。その理由の1つは、空調効率の良さにあります。一般的に、平屋よりも2階建ての家のほうが冷暖房効率は良いとされています。平屋のほうが建物内の体積に対して、外気に接する面積が大きいためです。
しかし、コンパクト平屋であれば体積があまり大きくならないため、平屋の中では熱効率がよいでしょう。床面積が小さく、天井も1階分しかないため、暖房やエアコンがよく効き、エネルギーロスを最小限に抑えられるのが魅力です。
また、コンパクトな間取りは照明の数も少なくて済むので、電気代の節約にもつながります。さらに、複層ガラスなどで断熱性能を高めれば、より一層、省エネ効果が高まるでしょう。
コンパクトな平屋のデメリットは?
コンパクトな平屋には、一般的な2階建ての住宅とは異なる課題があります。どんなデメリットがあるのか把握しておいてください。
収納不足に陥りがち
限られた面積の中に居室や水まわりなどをつくるため、工夫しないと収納不足に陥ってしまいます。設計に入る前に家族の持ち物の種類や量を明確にし、収納計画をしっかりと立てておくことが大切です。
「コンパクトな平屋でも、間取りの工夫によってシューズクロークやファミリークローゼットを取り入れることも可能です」
閉塞感を感じる人もいる
「空間がコンパクトなため、閉塞感を感じる人もいます。天井高や窓の設計の工夫、インテリアの配置などによって開放的な空間をつくることも可能です。設計前に担当者とよく相談しましょう」
平屋は建築上の高さ制限の対象になりにくく、天井を自由に設計しやすいという強みがあります。
「天井を高めに設計すると空間の閉塞感を減らし、開放感をプラスできます。屋根の形状を活かした勾配天井はコンパクトな平屋におすすめです」
天井高についてもっと詳しく→
住宅の天井高の平均は?2階建ての高さは?天井高を高くするメリットとデメリットも解説
プライバシーを守りにくい
「家族の気配を感じやすいという点は、メリットにもデメリットにもなります。部屋同士が近接していると、音が筒抜けになってしまう可能性もあります」
プライバシーの守りにくさは、子どもが成長したときにデメリットになりやすいので注意が必要です。プライバシーを守りたい部屋をリビングから離れた場所につくるなど工夫しましょう。
延床面積50m2未満の場合は住宅ローン控除適用外(緩和あり)
「住宅ローンを利用する場合、延床面積が50m2未満の住宅は控除対象にならないため注意が必要です。
ただし、2024年までに建築確認を受けた新築住宅の場合は40m2以上に緩和されます。ただし50m2未満の場合は所得要件が1,000万円以下となっています。
コンパクトな平屋の場合は住宅ローン控除の適用外になる可能性が高いので、事前に建築会社とよく確認をしておいた方がよいでしょう」
防蟻処理の費用が高くなる可能性がある
「基礎工事の際にはシロアリ予防の薬剤を散布する防蟻処理を行うのが一般的です。平屋は総2階の住宅と比べて基礎の面積が大きくなる傾向にあり、防蟻処理のコストが高くなりがちです。また、防蟻処理は建築後も5〜10年の頻度で行った方がよいとされています。将来的に必要となるメンテナンス費用も視野に入れて、コストの計算をしておくことをおすすめします」
防犯面の配慮が必要になる
コンパクトな平屋は、全ての部屋が地上階にあることから防犯面での対策が重要です。特に、寝室やリビングの窓などは、外部からの侵入経路となりやすいので、防犯ガラスやシャッターを付けるなどの対策をしましょう。
また、夜間は室内の様子が外から見えやすいため、カーテンやブラインドなどで視線を遮る工夫も有効です。
さらに、敷地周りのセンサーライトや防犯カメラの設置、玄関周りへのセキュリティーシステムの導入など、複数の防犯対策を組み合わせることで、安全で安心な住まいづくりを心がける必要があるでしょう。
水害時に浸水する範囲が広くなりやすい
コンパクトな平屋は、2階建ての住宅と比べて水害時の被害が広がりやすいという特徴があります。豪雨や河川の氾濫などで浸水が発生した場合、居住スペースが被害を受け、家財や設備が損傷を受けるリスクがあるでしょう。
2階建てであれば上の階に避難できますが、平屋の場合は家の外に避難せざるを得ない状況も考慮する必要があります。
これから土地を選ぶ場合は、ハザードマップで浸水想定区域でないか確認しておくことをおすすめします。土地が浸水想定区域に該当するかは、国土交通省のハザードマップポータルサイトや自治体の公開情報で調べられます。
特に、川沿いや低地に土地がある場合は、水害のリスクが高い場合があるため注意が必要です。
コンパクトな平屋で後悔しないためのポイントは?
コンパクトな平屋で快適に暮らすには、計画段階での細やかな配慮が重要です。ここでは、コンパクトな平屋を建てる際に後悔しないためのポイントを解説します。
日当たりやプライバシーを考慮した設計にする
「家の周辺に建物がある場合、日当たりが悪くなってしまう可能性があります。採光を確保するための窓を設置し、日当たりのよい家にしましょう。また、平屋は建物の特性上、高い位置からのぞかれやすいので、プライバシーを守ったり防犯性を高めることが大切です。窓の位置や大きさに注意し、窓を曇りガラスにして室内の様子が外から見えないようにする手法も有効です」
リビングを広めにつくり、ほかの部屋はコンパクトに
心地よく暮らすための間取りを実現するポイントは、部屋の広さのバランスを工夫すること。家族が長い時間を過ごすリビングは広めに、夜間しか使わない寝室はコンパクトに、といったように部屋ごとにメリハリを付けるとよいでしょう。
収納は、見せるものとしまうものを明確にする
「生活感を隠すためには収納計画が重要です。見せるものと見せないものを明確にし、隠したいものは扉付きの収納にしまえるようにしましょう。持ち物の量に合わせた収納をつくることもコツです」
ライフスタイルや家族構成に合わせて仕切りをアレンジ
「ライフスタイルや家族構成は時間の経過と共に変化していくものです。子ども部屋は子どもが大きくなるまではゲストルームなど別の用途で使用したり、広めにつくった居室に間仕切りを取り入れて2つの空間に分けるといったアレンジも可能です。また、子どもが巣立ち夫婦2人だけの生活になってからは、間仕切りを取り払って再び大きな空間にするという選択肢もあります」
部屋を分けるために使う間仕切りには、嵌め込み型のパーテーションや引き戸、間仕切り家具など色々な種類があります。
土地探しは余裕を持って行う
「平屋の家は2階建ての家に比べて建築面積が大きくなる傾向にあります。そのため広さにゆとりのある土地が必要となり、駅の近くなど利便性が高いエリアでの土地探しは難航する可能性も。郊外の土地も視野に入れ、時間に余裕を持って土地探しをすることをおすすめします」
モデルハウスを見学して広さを体感する
「実際の広さを体感するために、モデルハウスなどを訪れて平屋のイメージを把握しておくことをおすすめします。コンパクトな平屋を建てた後に『思ったよりも閉塞感があった』と後悔しないために、事前にリサーチをしておきましょう」
スキップフロアを検討する
コンパクトな平屋でも、スキップフロアを取り入れることで空間に変化がつけられます。スキップフロアとは、床の高さを数段分ずらして配置する設計手法で、限られた面積でも広々とした開放感や、個性的な空間を演出できます。
例えば、リビングを少し高くすれば、天井が高くなり開放感が生まれる他、床下に収納スペースを確保することも可能です。
さらに、各スペースの用途や機能に応じて床の高さを調整することで、ゾーニングを自然に行うことができ、プライバシーも確保しやすくなります。ただし、バリアフリーにはならないため、高齢者や小さな子どもがいる場合は、段差による転倒のリスクも考慮する必要があるでしょう。
勾配天井も検討する
コンパクトな平屋でも、勾配天井を採用することで、空間に広がりと開放感を生み出せます。勾配天井とは、屋根の傾斜に合わせて天井を斜めに上がっていく設計にすることです。
一般的な天井よりも高くなるため、開放感が生まれて圧迫感のない居住空間をつくれます。特に、家族が集まるリビングやダイニングなどの共用スペースを勾配天井にするのがおすすめです。
ただし、部屋の容積が増えるので、空調効率を考慮することも欠かせません。室温を一定に保つには、空気をかき回すシーリングファンを取り付けるなどの工夫も必要になるでしょう。
コンパクトな平屋の生活を楽しむ先輩たちの実例
ここからは、コンパクトな平屋を建てた先輩たちの実例を紹介します。ぜひ家づくりの参考にしてください。
【Case1】建て替えで手に入れた夫婦2人暮らしにぴったりのシンプルな平屋
夫婦が2人で暮らすためのシンプルな平屋を建てたTさん。スーモカウンターに相談し、2人暮らしにちょうどよいコンパクトな平屋が得意な建築会社を紹介してもらいました。夫婦で生活時間が異なるという事情を踏まえ、リビングを中心として夫婦それぞれの部屋が真反対にある間取りを採用。設置する家具も最小限にしたことで、空間が広々と使え、掃除も楽になりました。
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築65年の家を建て替えた夫婦二人にちょうどいいシンプルな平屋
【Case2】便利な動線にこだわった暮らしやすい平屋
築年数のたったアパートから引っ越し、マイホームを建てることにしたYさん一家。将来までずっと住みやすい家がよいと考え、平屋の住まいを希望し、スーモカウンターから紹介された高性能な家を建てられる会社に依頼することにしました。
土地探しに時間をかけ、見つけたのは約75坪の旗竿(はたざお)地。坪単価もリーズナブルで、水害にも強そうな地形という好条件を気に入って購入を決定。LDKと和室がつながる間取りを採用し、ロフト収納へのアクセスもはしごではなく階段に。年齢を重ねても暮らしやすい住まいが完成しました。
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ずっと住みやすい、住宅性能の高い家を。注文住宅でかなえた思いどおりの住まい
【Case3】廊下をなくして居住空間を広々と。理想の4LDK
築40年以上の実家を建て替え、注文住宅建築に踏み切ったOさんファミリー。スーモカウンターから紹介された小規模ながら説明が丁寧で納得のいく提案をしてもらえた会社に依頼し、完成したのは広々とした居住空間を確保した4LDKの平屋でした。
子どもがリビングを通って自室に入る動線や、廊下をなくすアイデアなど間取りにもこだわりました。広いトイレや主寝室のウォークインクローゼットも実現し、理想を詰め込んだマイホームが完成しました。
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実家を建て替えた廊下のない4LDKの「いいとこ取り」な平屋
【Case4】収納力抜群のスキップフロアのある平屋
Cさんは、お子さんの小学校入学を機に「シングルマザーでも家が建てられるの?」と不安を抱えながらスーモカウンターを訪問。収入と年金を組み合わせた資金計画のアドバイスを受け、希望条件に合う土地を紹介されました。半年以上、土地探しを続けた末にようやく条件に合う土地を見つけ、念願のマイホームを実現しました。
Cさんの平屋は、「ながら家事」がしやすい回遊動線が特徴。キッチンを中心に玄関やリビング、パントリー、ランドリールームが直線的につながる設計で、家事効率を大幅に向上させています。また、スキップフロアを採用して天井の高さを生かし、開放感と収納スペースを両立させたことで、親子2人の生活がより快適になりました。
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シングルマザーが建てたスキップフロアのある平屋 家事がラクな空間で娘との時間を満喫
コンパクトな平屋の家づくりに成功するためには?
最後に、コンパクトな平屋の家づくりに成功するためのポイントを大石さんに伺いました。
「限られた面積を使い、心地よく暮らせる平屋を建てるためには間取り決めが重要です。建築会社ごとにさまざまな間取りのプランが用意されていると思うので、比較検討しながら家族の価値観やライフスタイルに合った家づくりにつなげてください」
スーモカウンターに相談してみよう
平屋の家には、階段のない暮らしやすさ、効率的な家事動線、バリアフリーな空間など、多くのメリットがあります。また、建築コストや光熱費を抑えられる点も大きな魅力です。一方で、限られた敷地を有効活用する必要があり、収納スペースの確保やプライバシーの問題など、いくつかの課題もあります。
これらの課題を解決し、理想の平屋の家を実現するためには、専門家のアドバイスが不可欠です。スーモカウンターでは、豊富な知識と経験を持つスタッフが、あなたの希望や予算に合わせて最適な建築会社を紹介します。複数の建築会社の提案を比較検討できるのもメリットです。
あなたも、快適で理想的な平屋での暮らしを実現するため、まずはスーモカウンターに足を運んでみませんか?家づくりの不安や悩みを解消するヒントが、きっと見つかるはずです。
「土地は狭いけど平屋を建てることは可能?」「夫婦2人暮らし用のおしゃれな平屋はいくらで建てられる?」など、住まいづくりについて疑問や悩みがある人は、ぜひスーモカウンターに相談を。スーモカウンターでは、お客さまの希望を伺った上で、かなえてくれそうな依頼先を提案・紹介します。
無料の個別相談の他、「はじめての注文住宅講座」や「ハウスメーカー・工務店 選び方講座」など、家づくりの段取りや会社選びのポイントなどを学べる無料の家づくり講座も利用できます。ぜひ問い合わせてみてください。
取材・執筆/佐藤愛美(りんかく)、SUUMO編集部
イラスト/やまぐちかおり