注文住宅が完成すると、いよいよ引き渡しとなります。マイホームの引き渡しは楽しみな反面、「どのタイミングでおこなわれるのか」「当日はどのように進むのか」「トラブルが起きる可能性はあるのか」など、不安や疑問がつきものです。
そこで今回は、新築注文住宅の引き渡しのタイミングや準備、当日の流れ、注意点などをさくら事務所の友田雄俊さんにお聞きしました。引き渡し時によくあるトラブルと回避方法についても解説しているので、注文住宅の引き渡しで後悔したくない方はぜひ参考にしてください。
新築注文住宅の「引き渡し」とはどんな意味?いつおこなわれる?
注文住宅を新築した際の「引き渡し」とは、具体的にどのようなものなのか、いつおこなわれるのかなどを友田さんに伺いました。
引き渡しとは
「引き渡しとは、ハウスメーカーや工務店が、完成した住宅を施主様に正式に引き渡すことを意味します。
工事途中の家は、まだ施主様の所有物ではありません。引き渡し日に建築費の残金を支払い、所有権を登記する手続きをおこなうことにより、正式に施主様の所有物となります。引き渡しは決済がともなうので、住宅ローンを借り入れる金融機関でおこなわれるのが一般的です」(友田さん/以下同)
引き渡しは施主検査の後におこなわれる
「引き渡しは、施主検査で発覚した傷や不具合などを建築会社が修繕し、施主様が再確認してからおこなわれます。一般的には、施主検査の後1週間から10日後に予定されます」
引越しは引き渡し後にタイミングを見ておこなう
引き渡し後いつ引越しするかは、施主様の状況によってさまざまです。一般的には、引き渡しが済んでから1〜2週間後におこなう人が多いようです。
「引き渡し後の住宅は施主様の所有物となるため、いつ引越しても問題ありません。例えば賃貸住宅の契約期間などの事情で、引き渡しを受けてすぐに引越す方もいらっしゃいます」
引き渡しまでにやることは?
引き渡し日までにはどのような準備が必要なのでしょうか?
引き渡しの日取りを決める
「まずは引き渡しの日取りを決めます。引き渡しは、施主様と建築会社の担当者、金融機関の担当者、司法書士が一堂に会しておこなわれるのが一般的です。そのため主に建築会社の担当者が中心となり、4者の都合をすり合わせて日時を決めます。
なお金融機関は週末や祝祭日がお休みのところが多いので、引き渡し日は平日になることがほとんどです。会社勤めの方などスケジュール調整が必要になることも考えると、引き渡し日は早めに決めておくとよいでしょう。
基本的に引き渡しは、施主検査後に1週間から10日程度の修繕期間を設けた後におこなわれるのが一般的なので、施主検査の日を決める際にあわせて予定を組んでおくとスムーズです」
必要書類や費用を用意しておく
引き渡し日には、以下のような書類や費用が必要になるのが一般的です。
□本人確認書類
□住民票
□印鑑証明書と実印
□通帳と届出印(銀行印)
□登記費用
□司法書士報酬
□固定資産税の清算金
「必要な書類は、建築会社や金融機関によって異なる場合があります。事前に知らされるものを用意しましょう」
なお当日は、建築費用の残金も清算します。建築費用の残金についてはこちらをご覧ください。
引越しの準備を進める
引き渡し日が決まったら、引越しの日取りを決めて準備を進めます。
「電気や水道、ガスなどは、引き渡し日に開通するとその日から基本料金がかかるので、引越し日に合わせるのが一般的です。
もし引き渡し日と引越しの日が近い場合は、引き渡し日に合わせて開通しておくと、当日に設備の試運転をおこなえます。試運転は施主検査の際にもおこないますが、水道と電気のみとなり、ガスは通していないケースがほとんどです。引き渡しに際してガス器具も試しておきたい場合は、引き渡し日に合わせて開通しておくとよいでしょう」
賃貸の退去日を家主に連絡する
「現在賃貸住宅に住んでいる場合は、引越しの日が決まったら退去日を家主に連絡しておきましょう」
賃貸を退去するときの連絡は、「○カ月前まで」など契約書で期日が決められているのが通常です。「退去の1カ月前」がほとんどですが、なかには2〜3カ月前までとするところも。連絡が遅れると、家賃を余分に払うことになってしまうため、いつまでに知らせる必要があるのかは早めに確認しておきましょう。
引き渡し当日の流れは?
引き渡しの当日は、どこで、どのようなことをおこなうのでしょうか?
施主検査時に見つかった補修箇所を確認する
「施主検査がまだの場合や施主検査で指摘した箇所の確認が終わっていないときには、先に新居に立ち寄って済ませます。修繕時に別の箇所に傷が入っていることもあるので、修繕を依頼した場所だけでなく、その周りも確認しておくと安心です。
すでにすべての確認が終わっている場合はこの工程は省き、住宅ローンを借り入れる金融機関に直接集合するのが一般的です」
施主検査についてもっと詳しく→
施主検査でチェックすべきポイントや持ち物は?【チェックリスト付き】
金融機関に書類を提出し残金を支払う
「残金の支払いは、建築会社から実際に物件の引き渡しを受けたことを証明する書類に署名などし、そのほか融資実行に必要な書類を金融機関に提出して手続きを進めます。
融資が実行され施主様の口座に振り込まれたお金は、そのまま建築会社の口座に送金されます」
登記手続きをおこなう
「建築会社の口座への着金を待つ間に、司法書士のもと登記手続きに必要な書類の読み合わせや確認をおこないます。
登記手続きそのものは、引き渡し後に司法書士が法務局に足を運んで済ませます。登記の書類は、後日郵送されてくるのが一般的です。かかる日数のおおよその目安を聞いておくとよいでしょう」
家の鍵や建築確認済証などを受け取る
「建築会社の口座への着金を確認し、手続きがすべて済むと、家の鍵や建築確認済証、住宅性能評価書などの書類を受け取ります。鍵についてはのちのちトラブルとならないよう、何本受け取ったかを書面に残しておきましょう。
書類の確認などが終わったら、引き渡しは終了です。建築会社によっては、そこから一緒に新居へ向かい、ちょっとしたセレモニーをおこなうところもあるようです」
引き渡し時のポイントや注意点は?
引き渡しでトラブルにならないために押さえておきたいポイントや注意点を伺いました。
施主検査後に引き渡しを受ける
「引き渡しは本来、施主検査をおこない、1〜10日間程度の手直し期間を設けた後におこなわれるのが一般的です。しかし工事が遅れている場合、引き渡しと施主検査が同日になることもあります。引き渡し日をずらせればよいのですが、施主様側の賃貸の退去日の都合、建築会社側の決算上の理由などさまざまな事情で難しいことがあるためです。
ただしその場合でも、金融機関で決済・引き渡しの手続きをおこなう前に施主検査を受けることが大切です。また施主検査で問題があったときには、『決済が済んだから』と建築会社の対応が後手後手とならないよう、修繕の期日を決めましょう。その際は、口約束ではなく覚書など書面を交わしておくことが大切です」
保証内容を確認する
「引き渡し日に受け取る書類のうち、とくに重要なのが『保証書』です。住宅そのものや設備の保証は、引き渡し日を起算とするのが一般的です。保証内容とあわせて、起算日がいつになっているかは必ず目を通しておきましょう。そのほかは、以下の内容を中心に確認します」
保証期間
「保証期間は、新築住宅の基礎構造部分については法律で10年と決まっています。しかしその他設備などについては各社独自で保証期間を定めていたり、メーカーの保証期間に準じたりさまざまです。保証期間についてもよく確認しておきましょう」
免責事項
「『保証される内容』だけでなく『何が保証されないか』、いわゆる『免責事項』を確認しておくことも重要です。例えば入居後すぐに会社を入れてフロアコーティングをするようなケースでは、床自体の不具合は保証されない場合もあります。引き渡し後に何か工事を計画しているのであれば、保証に影響が出ないかどうか、あらかじめ確認しておきましょう」
メンテナンスのタイミングを確認しておく
「保証内容をチェックするのとあわせて、メンテナンスのタイミングを確認しておくこともオススメします。
一戸建てはマンションと違い、メンテナンスは自分で計画を立てて進める必要があります。どのタイミングでどのようなメンテナンスが必要なのか、それにはどれくらいの費用がかかるのか、定期点検はあるのかなどを確認しておくと安心です」
引き渡し時のお礼は原則不要
「施主様のなかには、引き渡し時に建築会社にちょっとしたお礼をする人もいます。ただし原則的には、建築会社へのお礼は不要です」
引越しが近ければご近所に挨拶しておく
「ご近所へのご挨拶は、引越し後におこなうのが通常です。ただし引き渡しから引越しまでさほど日にちがないような場合は、引き渡しの日に余裕があるなら挨拶しておいてもよいでしょう。
引越しではトラックが道路を長時間ふさいだり、多少なりとも騒音が出たりすることも考えられます。先にお伝えしておくと先方も心構えができますし、印象がよくなるのではないでしょうか」
注文住宅の引き渡し時によくあるトラブル
注文住宅の引き渡しでは、予期せぬトラブルに直面することがあります。ここでは、引き渡し時によくあるトラブル例を編集部がピックアップしてご紹介します。
引き渡しの時期が遅れる
本来であればスケジュールどおりに工事が終わり、注文住宅の引き渡しがおこなわれるのが望ましいですが、事情により引き渡し時期が遅れることがあります。引き渡しが遅れると仮住まいの費用や引越しのキャンセル費用などが発生しますし、引越しの再調整が必要になるなど施主の負担が大きくなる可能性が高いです。
引き渡し時期が遅れる理由はさまざまです。例えば、必要書類や手続きの不備によって決済ができず、それによって引き渡しに遅れが生じることがあります。
また、引き渡し時期に竣工が間に合わないケースもあります。建築資材の納品遅れや予定していた職人などの手配がスケジュール通りにならなかった、設計・施工変更の対応などによって工事が遅延し、引き渡しにも遅れが生じることがあります。
当初の費用から増額している
打ち合わせ段階で知らされていた金額と、精算時に請求された金額が異なるというトラブルもあります。言い間違いや記載ミスの場合もありますが、増額の理由の説明がなかったり、金額が妥当なのかわからなかったりする状態で支払うのは避けましょう。
引き渡しの段階で費用が増額している理由には、補修工事や追加工事が加算されていることがほとんどです。
家づくりでは、やむを得ない事情から追加工事が発生する可能性があります。そのため、打ち合わせの段階でどのような追加工事が発生する可能性があるのかを確認したり、提案を受けた時点で見積もりを提示してもらい、納得したうえで追加工事の契約をするようにしましょう。
小さな傷や不具合が発見された
引き渡し後に小さな傷や不具合が見つかるのも代表的なトラブルです。細かい傷や不具合は内覧会の時点では見落としてしまっていることがよくあります。とくに設備は引き渡し時に使って確かめることがないため、不具合に気づかないことが多いです。入居後に気になる点を見つけたら建築会社に連絡しましょう。
他にもドアや窓の建てつけが悪く、スムーズに開け閉めできないことが入居後に発覚する場合もあります。小さくても気になる傷や不具合を放置したまま引き渡しを受けると、のちのち補修が必要となるため注意が必要です。
仕様内容が当初の説明と異なっている
打ち合わせ当初と仕様内容の説明が異なることもあります。具体的なトラブル例は以下のとおりです。
- 床の素材が異なる
- 壁紙の色・柄が異なる
- 水回り設備のグレードが違う
- エアコンの型や配置が異なる
- オプションで変更した箇所が標準仕様のまま など
このようなトラブルは、建築会社のミスで本来の仕様とは異なる仕様になってしまったケースもあれば、建築会社と施主様の間で仕様内容やイメージに認識のズレがあって発生するケースもあります。後者に関しては、着工前に建築会社と入念に打ち合わせをおこない、お互いの認識を正しく共有することが求められます。
書類や助成金・補助金に関する説明がされなかった
引き渡しの際に必要な書類や助成金に関する説明がされなかったというトラブルもあります。新築注文住宅の引き渡し時には、建築確認申請書や確認済証、設計図書などたくさんの書類が渡されます。これらの書類をしっかりと受け取っておかないと、のちのちの助成金申請に影響を与える可能性があります。
助成金・補助金の申請を考えている場合、必要な書類を前もって調べておくことが大切です。住宅の性能証明書など、助成金によって必要な書類は異なります。引き渡し時に書類を受け取りそびれると、本来申請できるはずの助成金が申請できなくなる可能性があります。
また、利用できる助成金・補助金がないかを引き渡し前に担当者に確認しておくことも重要です。助成金の申請には期限もあり、説明がなかったために気づいたときには申請期間が終わってしまったというケースもあります。
注文住宅の引き渡し時のトラブルを回避するためにはどうすればいい?
注文住宅の引き渡しにはさまざまなトラブルが起きるリスクもありますが、回避方法を知っていれば対策できます。具体的にどのようなことに気をつければよいのでしょうか?続いては、引き渡し時のトラブルの回避方法をご紹介します。
よくあるトラブルを把握したうえで、より入念な打ち合わせをおこなう
引き渡し時のトラブル回避で重要となるのは、よくあるトラブルを把握したうえで入念な打ち合わせをおこなうことです。そもそもどのようなトラブルが起きるのかわかっていなければ、対策のしようがありません。家づくりではどのようなトラブルが起きやすいのか、建築会社の担当者に質問してみるとよいでしょう。
また、家づくりは施主が主体となっておこなわれます。専門的でわからないという理由から建築会社に任せきりしてしまうと、イメージとは異なる仕上がりとなってしまう可能性があります。わからないことは質問しながら、積極的に打ち合わせに参加することがトラブル防止につながります。自分の理想と建築会社のイメージに相違が生まれないように、画像を使うなどして細部まで入念に話し合うことが大切です。
打ち合わせなどのやり取りはすべて記録を残す
打ち合わせなど建築会社とのやり取りは、すべて記録を残すことをオススメします。文書や録音などのエビデンスが残っていないと、トラブルが発生した際にお互いに「言った・言わない」の水掛け論となってしまう可能性が高いです。しかし、エビデンスを残しておけば、やり取りの裏づけとなります。
どんなに些細な内容であっても、メールや書面でやり取りを交わすようにしましょう。対面や電話でのやり取りの際は、アプリを活用して音声を残しておくこともオススメです。建築会社のミスでトラブルが起きた際、文書や録音が証拠となるため、トラブルを大きくすることなく適切な対応を要求できるようになります。
ホームインスペクションをおこなう
ホームインスペクションとは、住宅の専門家による住宅診断サービスです。第三者に専門的な視点から建物の不具合・欠陥の有無を判断し、補修箇所も指摘してもらうことができます。
建築会社は工程ごとにしっかり検査を実施しているとはいえ、絶対に見落としがないとは断言できません。また、内覧会でしっかりチェックしていても、素人では不具合・欠陥に気づけない可能性があります。
ホームインスペクションを実施すれば、引き渡し前に不具合・欠陥を把握し、建築会社に補修を求めることができます。そして、不備が改善された状態で住宅が引き渡されるので安心です。
納得するまでは絶対にサインしない
トラブルを回避するためにも、自分が納得できるまで引き渡しのサインをしないでください。新築注文住宅の引き渡し前であれば、不備の責任は売主である建築会社にあります。そのため、チェックの際に不具合・欠陥が見つかれば、建築会社に対応してもらうことが可能です。
しかし、サインをして引き渡しが完了すると所有権は施主に移るため、不具合・欠陥などは自ら対応しなければなりません。また、建物が完成していない状態で、引き渡しのサインだけを要求されるケースもまれにあります。完成した注文住宅に問題がないことを確認できない限り、書面にサインせず、引き渡しを受けないことが大切です。
引き渡し前にトラブルが見つかって対応を依頼する場合、その内容を書面に残すことも重要です。トラブルの内容やどのような依頼をおこなったのか記録することで、依頼どおりに対応してもらえたのか確認できます。
現状にすべて納得したうえで引き渡しを受けよう
最後にあらためて友田さんに、引き渡しを受けるときの心構えを伺いました。
「引き渡しは、決済や書類上の手続きをおこなう『単なる事務処理』ではありません。引き渡しは工事が完了したことを認め、『私はこの物件の今の状態に不満がありません』と建築会社に宣言するに等しい行為です。それを理解して臨む必要があります。
施主検査で指摘した箇所はきちんと補修されているかを確認したうえで、書類の内容にきちんと目を通し、すべてに納得・理解した状態で引き渡しを受けましょう」
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イラスト/坂本伊久子
取材・執筆/佐藤カイ(りんかく)、SUUMO編集部
さくら事務所・ホームインスペクター