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法律改正! 断熱基準を下回る新築住宅はもう建てられない。「断熱の鬼」に聞く「夏は涼しく、冬は暖かい」家づくりの極意とは

これから家を買おう、建てようと計画しているあなた、「断熱」をどこまで真剣に考えていますか? 2022年に 「建築物省エネ法」が改正され、建物の断熱施工が義務付けられました。2025年度からは国が定めた断熱基準を下回る新築住宅は建てられなくなります。マイホームの購入を考える際には、最新の断熱基準に対応しているかを考慮する必要があるのです。

では、そもそも、なぜ住宅に断熱は必要なのでしょう。そして、どうすれば断熱は実現できるのか。「断熱の鬼」と呼ばれる松尾和也さんに、断熱に関する基礎知識と、信頼がおける建築会社や工務店の選び方などについて、お話を伺いました。

 

高断熱住宅で冷暖房にかかる費用を節約しよう

「家づくりに、なぜ断熱が大切なのか。それは、日本に四季があるからです。季節によって気温差がある日本だからこそ、室内に入ってきた熱を保温・保冷して、『冬は暖かく、夏は涼しく』するための技術が必要となるのです」

「断熱の鬼」こと松尾和也さんはそう言います。

季節による温度差が激しいので、冬は暖房、夏は冷房が欠かせません。とはいえ電気・ガス料金は年々上昇傾向にあり、生活を圧迫します。頭を痛めている人は多いでしょう。そのため「高断熱住宅によって暖房・冷房にかかる費用を節約しよう」という意識が高まっているのです。

また、国も断熱施策を強化し、2022年には建築物省エネ法を改正。2025年度以降は断熱等級4を下回る建物は新築できなくなります。家と断熱は今後ますます切っても切り離せない関係になってゆくでしょう。

では、どうすれば断熱の効果をあげられるのでしょう。お話を伺ったのは「断熱の鬼」の異名をとる松尾和也さん。“夏は涼しく、冬は暖かい住宅を経済的に実現する高性能住宅建築家集団”をモットーに活躍する株式会社松尾設計室の代表です。

株式会社松尾設計室代表・松尾和也さん

「断熱の鬼」の異名をとる株式会社松尾設計室代表・松尾和也さん

夏暑く冬寒い家は健康にも影響が出る

松尾さんはなぜ、「断熱の鬼」と呼ばれるほど断熱に関心を抱いたのでしょう。

「高校1年生の時、それまで住んでいた県営住宅から、新築の3階建てに引っ越したんです。広さは以前に住んでいた家の3倍あり、デザインもめちゃめちゃかっこよかった。自分の部屋は3階で、11畳もあり、はじめはとても嬉しかったんです。ところが実際に入居してみると、夏は暑いし、冬は寒い。とても苦痛でした。視覚情報は以前よりもリッチになっているのに、以前に住んでいた狭い家の方がずっと楽に過ごせたんです。それから16歳なりに『本当に住みよい家ってなんだろう』と考えるようになりました」(松尾和也さん、以下同)

実体験から断熱の重要性を肌に感じた松尾さん。それ以来、建築の勉強に励み、希少な断熱の専門家となりました。

では、断熱を施すことは、冷暖房費を抑える以外にどのような利点があるのでしょう。

「健康に関するメリットの大きさが挙げられます。断熱対策がされていない家は、外気温の影響をもろに受けるので冬は寒く、夏は暑い。気温差による体調不調の原因になるのです。また、外気温と室内気温の差により結露が起きやすく、そこからカビが発生する可能性があります。カビやダニはぜんそくやアレルギーを引き起こすおそれがあります。 
断熱工事を施したことで肩こり・腰痛が和らいだり、ぜんそくの発作が減ったりしたという話はよく聞きます。肩こり対策の湿布がいらなくなったり、鼻をかむティッシュを使う量が減ったりするなど節約にもつながるんです。なにより医療費が少なくなればメリットが大きいです。身体のためにも、心の健康のためにも断熱は必要だと思いますね」

断熱をするかしないかが、これほど心身に影響を及ぼすとは驚きです。

憶えておくべき「G2」と「C値1以下」

では、これから新築の一般住宅を建てようと考えている人は、高断熱を実現するために、事前にどのような知識が必要でしょう。

「大きく、2つあります。1つは断熱性能のグレードがG2以上であること。G2以上の家を選ぶのは、1番と言ってよいほどの、とても重要なポイントなのです」

G2とは聴き馴染みがない言葉です。そもそも「G」とは何を指しているのでしょう。

「Gとは屋根・外壁・床・窓といった建物の外皮部分の断熱・遮熱などの性能ランクを表す単位です。これはHEAT20(ヒート20/一般社団法人 20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会)という権威ある民間団体が、低環境負荷・安心安全・高品質な住宅の実現を目指し、日本を地域別に区分して定めた水準値なんです。G2でしたら暖房が必要な時期の最低室温が13℃を下回らない住宅であるという証しとなり、国が定めた断熱等級の6に近似しています。よほどの豪雪や酷寒の地域でない限り、G2は日本中の多くの人が快適に暮らせるグレードだと捉えてよいでしょう」

「暖房期の最低室温」基準の表

G2は最低室温が13℃を下回らない住宅、これは理解しやすい目安です。そしてG2以上の家を建てる最大のメリットは「長く住めば住むほど冷暖房費にお金の差が出ること」という点だそうです。

「断熱効果が低い家を建てると、初期費用は安く済みますが、月々の冷暖房にかかる料金が高くなります。G2以上の住宅は、住んでいる間に最初にかけたコストを回収できるし、20年も住めばお得に転じるんです」

断熱性能のグレードを表す単位「G」は一般的にはなじみがなくても、工務店などではごく常識的に使われる言葉なのだそう。家づくりにおいて、HEAT20が定めたG2以上にすることは前提と言って大げさではないようです。改正された建築物省エネ法と照らし合わせても、G2ならば断熱等級6にほぼ等しく、適合しています。

株式会社松尾設計室代表・松尾和也さん

断熱性能のグレードがG2以上であることが高断熱住宅実現の最大のポイントだという

では、もう1つの大きな要素とは、なんでしょう。

「気密性能を表す“C値”が1を切っているかどうかです」

C値もまた、Gと同じく聞き馴れぬ言葉です。

「C値とは家のすき間の総量を表す単位です。家から熱が逃げているかどうかを数値で表しており、C値は少ない方がいいんです。 C値が高い、つまりすき間があるとそこから熱が抜けたり、冬ならば冷たい風が入ってきたりして体感温度は下がります。そしてC値がアップ(値が大きい)すれば取り付けるエアコンの台数が多くなりがちで、稼働量も増えてしまう。長く住むと買い替えの費用もかかるでしょう。反面、C値が低ければ電気・ガスなどの費用も安くなる傾向にあります」

断熱を実現するために重要な点は、熱を逃さず、家全体をまんべんなく暖めること。壁だけではなく床や天井などのすき間をふさぎ、C値をさげることが暮らしやすさにつながるのだそうです。

「総括すると“G2以上”“C値1以下”、これに地震に備えて“耐震等級3”の3つをクリアしている家ならば大丈夫でしょう」

数字で根拠を表せない住宅メーカーは避ける

断熱性能をはかるGという単位、気密性を表すC値、高断熱を実現するための基礎を教わりました。では、建築会社や工務店を選ぶ際に、どういうポイントに着目すれば最新の断熱基準に適合した高断熱住宅をスムーズに実現できるでしょう。

「打ち合わせの際にこちらが“G2”“C値1以下”“耐震等級3”という満たすべき最低条件を提示して、そこにしっかり向き合ってくれる営業担当者がいる工務店や住宅メーカーなら安心して話を進められるでしょう。反面、『それはそれとして、当社には○○工法というものがありまして……』というふうに話をはぐらかしてきたら要注意です。十分な説明をしない担当者は、建築の知識が不十分であるか、もしくは説明責任よりも売り上げを重視している可能性が高いです。根拠を明示せず、『こうするとカッコいいです』といった抽象的な方向へ持っていこうとする担当者は危険視した方がいいと思いますね」

人生を決めると言って過言ではない新築住宅。悔いなく、妥協なく進めていきたいものです。もしも印象がよくない担当者にあたったら、いったん退く勇気も必要でしょう。

さらに松尾さんは、建築会社のWebサイトにも「任せられるかどうか」を判断できるポイントがあると言います。

「施工事例の画像を見てください。一見おしゃれだけれど窓にひさしがない家が並んでいると『日射遮蔽(しゃへい)を考慮していないな』とわかります。日射遮蔽は断熱に大きくかかわる問題です。そこをないがしろにしている会社や工務店は避けるのが無難です。そして説明文に数学や物理の要素が用いられていることもチェックすべき点ですね。断熱の根拠は数字で表されますから。さらに経営者や顧問の名で検索して、しっかりした論文が出てきたら、いっそう安心できる材料となります」

建築会社のWebサイトには、断熱への意識や知識をはかるヒントが散りばめられているのですね。

家づくりをオーダーする際、検討の材料としてモデルハウスもあります。松尾さんは「モデルハウスからも、メーカーによる断熱の得意・不得意がわかる」といいます。

「モデルハウスの室外機の数を数えてみるとよいです。室外機はエアコンの台数と比例しますから、『この規模の家で、こんなにたくさんのエアコンが必要なんだ。これだと冷暖房費用が生活費の多くを占めてしまうな』など事前に調査・計画ができます。この会社は断熱施工に本気なのかどうか、それをはかるバロメーターになりますね」

松尾さんは全国のモデルハウスを訪ね、エアコンの数を会社ごとに集計しているというから驚きです。まさに「断熱の鬼」です。

断熱を実現するため「日射遮蔽」は不可欠

建築会社選びのお話の中に出てきた「日射遮蔽」。夏の日射が室内に入り込んでくるのを遮断するという意味ですが、せっかくの陽当たりを遮ってしまうのはもったいない気がしてしまいます。家づくりにおいて、なぜ日射遮蔽は重要なのでしょう。

「主に夏のための対策です。もしも窓ガラスから入ってくる日射熱をそのまま受け入れてしまったら、家の中が熱くなって、いくらクーラーの設定温度を下げても焼け石に水。冷房費がかさむばかりです。それに身体にもよくない。例えば真夏に自動車を運転していて、日光があたる顔や腕は焼けるように熱く、それでいて冷房を浴び続けて膝やお腹だけが冷たくなってしまう経験がドライバーならばあるのではないでしょうか。あんな状態が続くと自律神経がおかしくなってしまいますよ。日射遮蔽をしないと家の中であの不快な状況が起きてしまうんです。窓にひさしやアウターシェードなどの遮蔽装置をつけることで日射熱を防ぎ、断熱の効果があがります。熱中症の予防にもなる」

日射遮蔽ができていないと冷房費が増えるだけではなく体調に悪影響を及ぼしてしまうとは……確かに高齢者の室内熱中症は社会課題となっています。では、窓そのものに工夫は必要でしょうか。

「必要でしょう。日射熱の影響を受けにくくするように東西北面の窓は極力小さくしてほしい。各部屋1面につき0.5平米以下がベストでしょう。そして南側の窓は冬に暖を取るために構造が許す限り大きくし、ひさし、もしくはシェードを設ける。これは必須と言ってよいです」

家づくりには“G2”“C値1以下”“耐震等級3”のほかに日射遮蔽も条件に加えたいところです。

「ただ、日射遮蔽の装置はこちらが希望しない限り、住宅メーカーが勝手に取り付けてくれるものではないです。真夏に日傘なしで歩いていたら、倒れてしまいますよね。それを思い出して、設計の際には『南窓にはひさしをつけてほしい』としっかり主張しましょう」

株式会社松尾設計室代表・松尾和也さん

日射遮蔽を施していない家は日射熱をダイレクトに受けやすいという

高断熱住宅は表面積の小ささで決まる

ではいよいよ、高断熱・高気密を実現する理想の家についてお伺いします。どのような立地で、どのようなデザインの家を建てる・購入するのが望ましいでしょう。

「広い敷地があって、もしもどんな形にでも設計が可能ならば、南向きで 、少しだけ東西に細長い直方体にできたらいいですね。隣家が近い場合だったら、隣家の影にならない位置に窓を設置しましょう。そして総2階に近ければなおよい。例えば敷地が40坪だったら、1階30坪:2階10坪という比率よりも、1階20坪:2階20坪の建物がいいでしょう。そうすることで表面積が少なくなるんです」

1階と2階の坪数が同じ、あるいは近似する長方形の2階建てが理想だと松尾さんは言います。そうすることで家の凹凸が少なくなり、表面積が小さくなり、日射や風雪による外気温の影響を減らせるのです。

直方体が理想であるならば、いま流行の平屋はいかがでしょう。

「断熱の懸念点としては、平屋は表面積が大きくなるんですよ。家全体に光の熱が当たるし、冬は屋根に雪が積もるので、夏は暑く、冬は寒くなってしまいます。マンションも同じです。タワーマンションの最上階に憧れを抱く人は多いですが、断熱という視点から見ると、中層階で両隣にも誰かが住んでいる環境の方が暮らしやすいです。天井や壁が受けるダメージが少ないですから。とはいえ、屋根の断熱をかなり強化すれば大丈夫です」

外壁などに気をつけるべき点はあるでしょうか。

「壁の色は白っぽい方がいい。黒い外壁は流行していますが、断熱効率からいえば避けた方がよいです。小学生の頃、理科の授業で虫メガネを使って実験したでしょう。黒は熱を集める色なんです。虫メガネだと燃えてしまいます。それなのに一時期、真っ黒でひさしがない平屋がおしゃれだといって流行したんです。それを見て『なぜ好きこのんで自ら過酷な状況にしたんだろう』と思いました」

流行しているから、おしゃれ感があるから、それだけで家をデザインしてしまうと、暮らしづらさのあまり、その家に長く住めなくなる可能性すらあるのだそうです。

高断熱住宅はCO2排出量の削減につながる

家を取り巻く環境は日々、変わっていきます。高断熱が注目された大きな理由の1つに、気温の上昇がありました。気象庁の調べによると日本の年平均気温は上昇し続けており 、全国の猛暑日(日最高気温35℃以上の日)の年間日数も増加 しています。国が高断熱に関する法律を改正した背景には、高断熱住宅によって冷暖房にかかるエネルギーを節約し、CO2排出量を削減しようという理念があったのです。高断熱住宅を建てることは個人の節約という範疇を超え、社会貢献ともいえます。

「近年、11月になっても気温が30度を超える日がありました。地球温暖化が進んでいるのを感じます。私はスキー歴30年になりますが、冬季直近でここまで雪が降らない経験はかつてなかったです。そして、それなりに未来に危機感も抱いています。もっと多くの方が断熱を理解し、断熱に取り組めるよう、正しい情報を発信してゆきたい。それが自分の使命だと思っています」

お話を伺った人/松尾和也さん

1975年 兵庫県出身。株式会社「松尾設計室」代表取締役。「健康で快適な省エネ建築を経済的に実現する」をモットーに設計活動を行う。2005年「サスティナブル住宅賞」受賞。住宅専門紙への連載や「断熱」「省エネ」に関する講演も行っており、受講した設計事務所、工務店等は延べ6000社を超える。著書に『ホントは安いエコハウス』がある。

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公式サイト:https://matsuosekkei.com/
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聞き手・文:吉村智樹
写真:出合コウスケ 
編集:SUUMO編集部