瓦屋根に対して「古風」というイメージをもつ方は少なくありません。しかし、実際には多彩な色やデザインを選べるなど、瓦屋根は現代的な住まいにも調和する魅力をもっています。ただし、瓦屋根には多くのメリットがある一方で、デメリットが存在することも事実です。
そこで今回は、リソーケンセツの髙橋秀和さんにお話を伺い、瓦屋根の特徴や種類、メリット・デメリットを解説します。また、瓦屋根を採用して家づくりを成功させた実例も紹介します。瓦屋根の採用を検討している方や、適切な施工会社を探している方は、ぜひ最後までお読みください。
瓦屋根とは?
瓦屋根は、瓦を屋根材として使用している屋根のことです。瓦の原料は主に粘土を焼いて成型したものですが、粘土以外の原料を使った瓦もあります。
和瓦と洋瓦の違い
粘土を使った瓦にも、大きく分けて和瓦と洋瓦があります。それぞれ、どのような特徴があるのでしょうか?
「和瓦は、昔ながらの日本家屋で使われている瓦です。波を打ったような形をしており、釉薬(ゆうやく)を使った釉薬瓦(陶器瓦)や、釉薬を使わない無釉瓦(むゆうがわら)があります。
洋瓦は、元々海外の住宅で使われていた瓦で、無釉薬の素焼瓦です。日本でも洋風住宅などで使用されています」(高橋さん、以下同)
瓦の種類と特徴は?
瓦は、さらにいくつかの種類に分けられます。どのような瓦があるのか、見ていきましょう。
釉薬瓦(陶器瓦)
「瓦の表面を釉薬でコーティングした瓦です。表面にツヤが出て、水がしみこみにくく、耐久性に優れています。釉薬によってさまざまな色を出せるという特徴があります」
無釉瓦(いぶし瓦、素焼瓦)
「釉薬瓦に対して、釉薬を塗らない瓦が無釉瓦です。無釉瓦にはさまざまな種類がありますが、代表的なのはいぶし瓦と素焼瓦です。
いぶし瓦は、瓦を焼き上げる際に、燻す(いぶす。蒸し焼きにすること)ことで、耐久性を高めています。渋い銀色が特徴で、経年でムラが出ますが、それが味になります。主に日本家屋で使われます。
素焼瓦は、粘土を焼いた素の状態の瓦です。使用する土の色合いがそのまま瓦の色になります。洋瓦は基本的に素焼瓦です」
セメント瓦
「セメントを主原料としたものを型に入れて形成する人工的な屋根材です。コストが安く、大量生産できるという特徴がありますが、割れやすく、見た目が時代遅れな印象を受けるため、今はあまり使われていません」
瓦屋根の耐用年数は?【編集部解説】
瓦屋根は、その種類によって特性が異なるため、耐用年数にも違いがあります。ここでは、各種類の瓦の耐用年数を、メンテナンスの有無とともに編集部が解説します。
釉薬瓦(陶器瓦)の耐用年数
釉薬瓦(ゆうやくがわら)は、陶器の皿やマグカップの表面に見られるガラス質の釉薬を使った瓦です。この釉薬があるおかげで、釉薬瓦は吸水率が非常に低く、経年劣化に強いことで知られています。そのため、耐用年数は50~100年ともいわれ、半永久的に使える瓦として人気です。
瓦屋根を考えている方のなかには、「耐用年数が長いなら釉薬瓦を選びたい」と思う方も多いでしょう。しかし、瓦そのものは長持ちしても、屋根の下地部分は時間とともに劣化してしまいます。現代の技術でも、この下地の劣化を完全に防ぐことはできません。
さらに、地震や台風などの自然災害によって、瓦がズレたり割れたりすることもあります。下地が劣化したり、瓦がズレたり割れたりした場合は、補修や修理が必要になります。そのため、いくら瓦自体の耐用年数が長くても、メンテナンスが全く不要というわけではないのです。また、釉薬瓦は他の瓦に比べて導入コストが高めな点も注意したいポイントです。
無釉瓦(いぶし瓦、素焼瓦)の耐用年数
無釉瓦(むゆうがわら)は釉薬瓦とは異なり、釉薬を使用しないため比較すると耐久性が低くなりますが、それでも無釉瓦の耐用年数は30~60年と、比較的長い期間使用できます。
特にいぶし瓦の場合は瓦を焼き上げる際に煙で燻(いぶ)す工程が施されており、耐久性が向上しているのが特徴です。
ただし、無釉瓦は、経年劣化により表面の炭素被膜が剥がれることがあります。そのため、耐水性を維持するために定期的な補修が必要です。ただし、色褪せる心配はほとんどなく、瓦が浮いたり割れたりしない限り、美観性が大きく損なわれることは少ないといえます。
また、無釉瓦は導入コストが高めである点も考慮する必要があります。他の瓦と比較してもコストが高いことが多く、初期費用がかかる点には注意が必要です。
セメント瓦の耐用年数
セメント製のセメント瓦の耐用年数は、約20〜40年です。導入コストが低い一方で、紫外線や雨風の影響を受けやすく、色褪せやカビ、コケが発生しやすいという欠点があります。そのため、現在ではあまり使用されていません。耐久性はほかの瓦と比較して低いものの極端に悪いわけではなく、発売当初は非常に人気がありました。
また、紫外線や雨風による色褪せやカビ、コケの発生があっても、定期的に塗装などのメンテナンスを行うことで劣化を抑えることができます。ただし、メンテナンスを怠ると耐水性が低下し、瓦自体が脆くなる可能性があるため注意が必要です。
メンテナンスは10~20年ごとに行うことが推奨されていますが、このサイクルはほかの瓦に比べて短く、手間がかかる点も特徴といえます。
瓦屋根の取り付け方法【編集部解説】
瓦屋根は、取り付け方法にもいくつかの種類があります。主流なものから現在はあまり使われていないものまで、メリット・デメリットを編集部が解説します。
湿式工法(土葺き工法)
湿式工法は、昔から伝わる施工方法の一つです。この工法では、漆喰を水で練り合わせたもの、つまり葺き土の上に瓦を載せていきます。
この方法では、漆喰が接着剤の役割を果たし瓦と密着するため、瓦が落ちにくくなります。しかし、大量の土を使用するため、ほかの工法に比べて屋根が重くなってしまうのがデメリットです。屋根が重いと、建物の柱に余計な負担がかかり、地震時に揺れが大きく感じられるなどのリスクが伴います。建物の強度を高めることで安全性を向上させることが可能ですが、その分、コストが上がることになるでしょう。
さらに、時間の経過とともに葺き土は痩せていくため、瓦をしっかりと固定する力が弱まる前にメンテナンスを行うことが重要です。安全性の高い新しい工法が普及した現在では、湿式工法が使われることは少なくなっています。
乾式工法(引掛け桟瓦葺き工法)
乾式工法は、桟木(細長い木材)を下地に取り付け、その桟木に瓦を引っ掛けて釘で固定する工法です。この方法では、瓦がしっかり固定されるため、落下の心配がありません。また、屋根全体の重量が軽くなるため、現在では主流の工法として広く採用されています。湿式工法と比較すると、重量は約2/3に抑えられ、耐震性の向上にもつながります。さらに、屋根の下地には防水シートであるルーフィングが敷かれているため、雨漏りのリスクも抑えられます。
ガイドライン工法
「ガイドライン工法」とは、平成13年に制定された「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」に基づく施工方法を指します。この工法で施工された瓦屋根は、振動実験により、阪神・淡路大震災クラスの強い揺れにも耐えられることが証明されています。科学的データに基づいて設計されているため、安全性が高い安心できる工法です。
さらに、ガイドライン工法は強風にも強いのが特徴です。風が表面に当たるだけでなく、瓦を巻き上げるような風にも耐えられる設計となっており、新幹線並み(250km/h)の強風にも対応できると考えられています。
なお、令和4年1月1日に施行された建築基準法の改正により、瓦屋根の強風対策が強化されています。これに伴い、従来のガイドライン工法も見直され、以前は瓦4枚につき1本の釘で固定する方法が一般的でしたが、現在ではすべての瓦を緊結し、平部の瓦は釘で固定することが義務付けられています。
瓦屋根のメリットは?
屋根には瓦屋根以外にもさまざまな種類がありますが、瓦屋根のメリットは何でしょうか? ここからは再び高橋さんに解説いただきます。
耐久性が高い
「瓦屋根は、瓦自体の耐久性が高いため、メンテナンスがほぼ不要な点が大きなメリットです」(高橋さん、以下同)
部分的な葺き替えが可能
「万が一瓦が一枚割れても、そこだけ取り換えればいいので、手間が少なく済み、コスト的にもメリットが高いといえるでしょう」
断熱性が高い
「瓦屋根には空気層が多いため、ガルバリウム鋼鈑などのほかの屋根と比べて断熱性が高いというメリットがあります」
遮音性が高い
「空気層が多いという特徴は、遮音性の高さにもつながります。ほかの屋根に比べて、雨音などが響きにくい点はメリットです」
瓦屋根ならではのデザイン性
「瓦屋根には独特の趣があります。これまで述べてきたような機能面よりも、そのデザイン性が気に入って瓦屋根を選ぶ方は多いです」
瓦屋根のデメリットは?
瓦屋根にはメリットが多い反面、デメリットもあります。どのようなデメリットがあるのか、見ていきましょう。
重いため耐震性に劣る
「屋根が重いと柱や梁などに負担がかかり、地震の時に損傷しやすいことから、瓦屋根は、一般的にガルバリウム鋼鈑の屋根などに比べると重いため、耐震性に劣るといわれています。ただし、屋根を支える構造を頑丈なものにすれば、耐震性を高めることができます。
また、昔は屋根に泥を塗り、その上に瓦を葺いていましたが、今はビスで瓦を止めているため、屋根全体の重量は随分軽くなっています。その上、瓦自体も軽くなっており、昔のイメージで重いというのは間違いです」
地震や台風で飛んだり、落ちてきたりする
「地震や台風で瓦が飛んだり落ちたりしているニュース映像を見かけることがありますが、それらはほとんど20年以上前に施工された瓦屋根だと思われます。最近は防災瓦が標準になっており、瓦同士の連結が強化されているため、落ちたり飛んだりしにくい構造になっています」
リフォーム(カバー工法)には不向き
「カバー工法というのは、古い屋根の上に新しい屋根を被せるように葺くリフォームの方法ですが、瓦屋根は既存の瓦を再利用するので、この方法は向いていません」
波打った瓦の上から新しい屋根を被せるのも難しいため、瓦屋根からほかの屋根にリフォームしたい場合には、一度瓦屋根を取り除いてから新しい屋根に葺き替える必要があり、コストが高くなります。
瓦屋根のメンテナンスは?
耐久性が高いことが特徴の瓦屋根ですが、定期点検と瓦屋根を支える下地のメンテナンスは必要です。
メンテナンス方法
「瓦自体は耐久性が高いので、割れたりしていなければそのまま使えます。ただし、瓦を下地に止める部分が劣化している場合があるので、定期的に点検をして、劣化していれば下地を補修する必要があります。
その場合、下地が劣化している箇所の瓦だけを取り除き、下地を補修した後、また戻すという方法でメンテナンスします」
メンテナンスの周期
「点検は、10年に一度くらいの周期で行うといいでしょう。最初の10年は特に直すところがないこともありますが、20年、30年経てば、外からは見えない下地の部分が劣化していることがあるためです」
瓦屋根をおすすめするケースは?
数ある屋根の種類のうち、瓦屋根をおすすめするケースを紹介します。
メンテナンス費用を抑えたい場合
「屋根は、住宅で最も紫外線や風雨に晒されるので、メンテナンスが欠かせない箇所です。その点、瓦屋根の場合は耐久性が高く、メンテナンス費用を抑えたいという方におすすめです」
和風または洋風のデザイン性を重視したい場合
「瓦屋根の外観が醸し出す雰囲気に惹かれる人は多いでしょう。和風でも洋風でも、ほかの屋根では味わえない風合いがあるため、瓦屋根のデザイン性が好きだという人にはおすすめです」
瓦屋根を選んで理想の住まいを実現した先輩たちの実例を紹介!
スーモカウンターで、瓦屋根を選んで理想の住まいを実現した先輩の実例を紹介します。先輩が、どのような点にこだわり、どのような住まいを実現したのか、実例を参考に学んでいきましょう。
【case1】ベージュの外壁に合わせて色を選んだ瓦屋根が印象的な家
夫の実家がある敷地内で住まいを新築することにしたDさん夫妻。夫妻の意見は「おしゃれな平屋に住みたい!」という点で一致しました。まずは二人で住宅展示場をまわりましたが、平屋の価格が比較検討しにくいと感じ、スーモカウンターを訪問。そこで、希望と予算を伝えて、7社紹介されたなかから5社、3社と絞り込み、最終的にセンスの良さが感じられた1社に決定しました。
家づくりの過程で、建築会社の担当者から「屋根瓦はベージュの外壁に合わせて選ぶ」といったさまざまなアドバイスを受け、センスの良さを感じたと言います。そして、念願の新居が完成。どの角度から見てもバランスのとれた外観に大満足です。
この実例をもっと詳しく→
自慢のインナーガレージ付き!外観にもこだわった、三角屋根が連なる平屋の家
【case2】メンテナンス性を重視して瓦屋根を選択したエレガントな住宅
「グランドピアノが入る一戸建て」を絶対条件としていたIさん夫妻。賃貸アパートを借りる際にも活用していたSUUMOへの信頼があったことから、スーモカウンターで相談することに。
アドバイザーに相談するなかで、将来の快適性を考えることの重要さに気付いたことから、メンテナンスが楽な瓦屋根を選択するなど、さまざまな工夫が散りばめられた住宅が完成しました。
この実例をもっと詳しく→
吹抜けからの採光とグランドピアノの音色が美しい住まい
瓦屋根を選ぶときのポイントは?
最後にあらためて高橋さんに、瓦屋根を選ぶときのポイントを聞きました。
「これまで見てきたように、耐震性の問題は構造の工夫で対応できますし、災害時の安全性も改善されてきています。そういった点も踏まえて、耐久性、メンテナンス性、デザイン性など、瓦屋根のメリットに魅力を感じる人は、瓦屋根を選ぶといいと思います」
スーモカウンターに相談してみよう
「どうやって進めたらいいのかわからない」「瓦屋根の実績が豊富な建築会社はどうやって選べばいいの?」住まいづくりにあたって、このような思いを抱いているなら、ぜひスーモカウンターに相談を。スーモカウンターでは、お客さまのご要望をお聞きして、そのご要望を叶えてくれそうな依頼先を提案、紹介します。
無料の個別相談のほか、「はじめての注文住宅講座」や「ハウスメーカー・工務店 選び方講座」など、家づくりのダンドリや、会社選びのポイントなどが学べる無料の家づくり講座も利用できます。ぜひお問い合せください。
イラスト/タイマタカシ
監修/SUUMO編集部(瓦屋根の耐用年数は?【編集部解説】、瓦屋根の取り付け方法【編集部解説】)