住まいの中で主に移動のために使われる廊下をできるだけ減らしたいという人は多いでしょう。土地の形や部屋数にもよりますが、レイアウトを工夫すれば、廊下のない間取りも可能です。では、そもそも廊下のない間取りと廊下のある間取りを比較した場合、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。米戸建築工房の代表で一級建築士の米戸誠治さんに話を伺いました。
廊下がある意味とは?
住宅における廊下とは、建物内の部屋と部屋をつなぐ細長い通路のことです。それでは廊下がある意味について皆さんはどの程度ご存じでしょうか?米戸さんは以下のように考えています。
「間取りをプランニングする際、動線を確保するために廊下が必要になります。地価の高い都心などでは極力廊下を減らす方向で設計しますが、ある程度広さのある住宅の場合、廊下によってスムーズな動線が実現します」(米戸さん、以下同)
廊下のない間取りのメリットは?
もしも、廊下のない間取りに設計した場合、どのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。
部屋として使えるスペースが増える
廊下を移動のためのスペースだと考えると、一見無駄のようにも感じます。その分の面積を部屋として使いたいという人もいるでしょう。
「都心の場合、一般的な住宅用地は100m2前後が多いと思いますが、仮に建ぺい率50%、容積率100%の2階建てなら、1フロアに使える床面積は50m2です。そうすると、廊下のためのスペースはわずか1畳でももったいない。いかに廊下を減らして使いやすい間取りを実現するかが、建築士の腕の見せ所です」
動線が短くなる
部屋から部屋への移動に、廊下を経由することなく直接移動できる、つまり動線が短くなる点もメリットの一つといえそうです。
「確かに部屋から部屋への動線が短くなるのはメリットですが、奥の個室へ行くのに必ず手前の個室を横切るような使いづらい間取りにならないよう気を付けなければいけません」
家族のコミュニケーションが増える
「別々の部屋にいても気配を感じやすいため、何となく家族の状況を把握しやすいという面はあると思います。また必ずリビングを通らなければ外出できないような間取りなら、顔を合わせる機会も増えるでしょう」
風が抜けやすい
「地域にもよりますが、日本では偏西風の影響から、南北に風が通ります。そのため、住宅は南北の通風を確保することが大事です。しかし、南の部屋と北の部屋の間に廊下があると、風が抜けにくい。廊下のない間取りの方が風が抜けやすく、通風を確保しやすいといえます」
コストが抑えられる
「廊下のない間取りは、廊下のある間取りに比べて壁の量が少なく済みます。壁の量が少ないということは、建具の数も少ないということ。建具のコストは意外と大きいので、コスト削減につながります」
廊下のない間取りのデメリットは?
次に、廊下のない間取りに設計した場合のデメリットを見ていきましょう。主に、以下のようなデメリットがあげられます。
レイアウトが限られる?
「設計において、廊下のない間取りで、かつ使いやすい間取りというのは難しく、レイアウトの自由度は低くなります」
生活音や匂いがもれやすい?
「廊下は、部屋と部屋の間に入ってクッションの役割も果たします。そのため、廊下がなければ、隣り合う部屋の音や匂いがもれやすく、場合によっては生活しづらく感じることもあるでしょう」
隣の部屋の光がもれやすい?
「家族間で起床や就寝の時間が異なる場合、隣の部屋の光がもれて睡眠を邪魔されるといったことも考えられます」
プライバシーが確保しづらい?
「廊下がないため、来客時でも建具を1枚開けたら室内が丸見えになりかねません。レイアウトにもよりますが、プライバシーが確保しづらい点はデメリットの一つです」
冷暖房効率が悪い?
廊下のない間取りは、大空間のリビングや個室の数を増やすことができる反面、冷暖房効率が悪くなる印象がありますが、実際のところどうなのでしょうか?
「家全体の断熱性や冷暖房の方法によります。まず、本州でも寒冷地用の断熱材や断熱構造を採用するなど、家全体の断熱性を高めます。その上で、冬は床下から家全体を暖房する方法(床下暖房)を採用したり、夏は上の階を冷やすことで家全体を冷やしたり、こういった対策を取ることで光熱費を抑えながら快適な住環境を得ることは可能です」
趣のない間取りになる?
「建築は、あえて無駄に思えるスペースを作ることで趣が出ることもあります。廊下のない間取りは、可能な限り無駄をそぎ落とすため、趣という面では物足りないかもしれません」
【実例紹介】廊下のない間取りで快適な生活を手に入れた先輩たち
実際に廊下のない間取りとはどのような間取りなのか、どのような工夫をすれば廊下のない間取りを実現できるのか、米戸さんが設計した住宅の間取りを例に解説します。
【実例1】3階建て狭小住宅「緑と住む家」
都心部に建つ木造3階建てで、敷地面積は約50m2、各フロアの床面積は約30m2、延床面積としては90m2超の住宅です。
玄関から入って右手に1階の個室と水回り、吹抜け階段を上って2階が1フロアのLDKです。さらに吹抜け階段を上って3階は個室と畳コーナーになっており、どのフロアにも廊下はありません。
部屋を縦に積み上げたレイアウトのため、吹抜け階段が廊下の役割も担っています。家全体を最高ランクの断熱仕様で包んだ上、1階は床下暖房、2階は床暖房を設置しているため、3層吹抜けでも冷暖房効率に問題はありません。
【実例2】2階廊下を多目的ホールにした「三角地の家」
1階、2階ともに約57m2、延床面積約114m2の2階建て木造住宅です。
1階には玄関ホールがあり、手前に階段、奥にトイレがありますが、廊下的な機能を担っているのはそこだけです。
2階には寝室と子ども部屋が2部屋あります。通常、2階に個室を配置する場合は階段から各居室への動線として廊下が必要になりますが、この実例では廊下を広めに取ることで多目的ホールとして活用できるようにしています。廊下を部屋のように活用することで、無駄なスペースのない間取りが実現しました。
【実例3】実家を建て替えた廊下のない4LDKの「いいとこ取り」な平屋
土地面積450m2、延床面積は97m2の平屋建ての住宅です。
平屋には、生活動線がシンプルになるほか、メンテナンス費用や光熱費が抑えられるといったメリットがあります。また、建物の高さが低いため、地震の揺れや風にも強いのがポイントです。
当初、建築会社から廊下のある間取りを提案されたものの、施主はできる限り居住空間を確保すべく廊下をなくしたいと思っていたそうです。娘さんの部屋をリビングに隣接させ、息子さんの部屋は友達と少々騒いでも良いように玄関の側へ設けます。さらに家事がしやすいように、キッチン・洗面所・浴室を横並びに配置しました。廊下をなくすことで、最大限にスペースを活用した無駄のない間取りが実現しました。
この実例をもっと詳しく→
実家を建て替えた廊下のない4LDKの「いいとこ取り」な平屋
廊下なしの間取りで後悔しないための注意点とは
廊下なし間取りのメリットを最大限に活かすために、以下の注意点についても確認しましょう。
ゆとりのない生活空間にならないか
実際に住み始めてみると、部屋同士が近くてストレスを感じたり、生活のなかで不便な部分が見つかることも。、住み始めてから後悔しないためにも「ゆとりのある生活が送れるか」をしっかり考えて、間取りを検討しましょう。
加えて、廊下のあり・なしによって間取りに制限がうまれて自由度が低くなる点も注意が必要です。
生活音が気になる部屋の配置ではないか
廊下がなくなることで、生活音が際立って聞こえるようになる場合があります。
足音やトイレの流す音、換気扇やテレビの音など、生活音は必然的に発生します。廊下があると、部屋同士に複数の隔たりがあるために、聞こえる生活音が少なくなります。
同居人のなかに帰宅が遅い人がいる場合は、寝室からトイレや浴室を離すなど、間取りを工夫するようにしましょう。
セキュリティ面の問題はないか
廊下がなくなることで、生活の様子が外から簡単に見られてしまうといったセキュリティ面の問題が発生する場合があります。
廊下がないと、玄関と部屋が直接繋がることになります。ドアを1つ開けるだけで生活空間に直結してしまうため、注意が必要です。
外から生活空間が見えやすいのは、防犯的に考えても危険なため、玄関のつくりや仕切りを設けるといった形で対策を考えましょう。
冷暖房効率にどう配慮するか
廊下がなくなれば部屋同士が隣接します。特に、玄関とリビングが隣り合っていると外気の影響を受けたり、リビングが広いなど間取りによっては冷暖房の効率が悪くなったりします。
冷暖房効率を高めるには、気密性や断熱材にもこだわりを持つことが必要です。窓を樹脂サッシや複層ガラスにしたり、壁や天井に質のよい断熱材を使用したり、全館空調にするなどすることで、冷暖房効率は高められ、光熱費の削減につながります。
活用方法次第では廊下も無駄なスペースにならない
廊下は、使い方次第で無駄なスペースにはならず活用できますので、廊下のない間取りと合わせて以下も検討してみてください。
※ただし以下で紹介するアイデアは、ある程度廊下が広い場合に限ります。
収納スペースにする
廊下を収納スペースとして活用することで、空間を有効活用できます。
人が不自由なく廊下を通るには、85cmの幅が必要とされています。廊下に収納スペースを設ける際は、通り幅85cmを保持して広さを確保するようにしましょう。
廊下に収納スペースを設ける際は、隣接する部屋との相性も考えるのがポイントです。個室や書斎に近いのであれば本棚、玄関が近ければ靴やアウトドアグッズの収納スペースにするとよいでしょう。
作業スペースや書斎にする
十分に広い廊下であれば、通るだけや収納スペースにするのではなく、作業スペースや書斎にすることも可能です。
先述のように85cmの幅を確保しながら、コンパクトな机を設置して軽いワークスペースを設けてみるとよいでしょう。
ギャラリーとして使う
生活を便利にするスペースとしてだけでなく、魅せる空間として廊下を活用するのも1つの効果的なアイデアです。
十分に広い廊下なら、ショーケースや棚を設置して小物やフィギュアなどを飾ってみるとよいでしょう。あまり広くない場合でも、ポスターや絵画であれば空間を埋めることなく魅せる廊下を実現できます。
廊下のない住まいを実現するためのポイント
最後にあらためて米戸さんに、廊下のない住まいを実現するためのポイントを聞きました。
「朝起きてから寝るまでの家族の動線をシミュレーションしてみてください。また、もし来客があるなら、どんなお客さまで家のどこまで入ってくるのかもシミュレーションしましょう。できるだけ廊下を減らすことを念頭に、日々の生活が窮屈にならない間取り、来客からの視線を想像して、居心地の悪くならないような間取りを検討するのがポイントです」
スーモカウンターに相談してみよう
「どうやって進めたらいいのかわからない」「無駄のない間取りが得意な建築会社はどうやって選べばいいの?」住まいづくりにあたって、このような思いを抱いているなら、ぜひスーモカウンターに相談を。スーモカウンターでは、お客さまのご要望をお聞きして、そのご要望をかなえてくれそうな依頼先を提案、紹介します。
無料の個別相談のほか、「はじめての注文住宅講座」や「ハウスメーカー・工務店 選び方講座」など、家づくりのダンドリや、会社選びのポイントなどが学べる無料の家づくり講座も利用できます。ぜひお問い合せください。
イラスト/高村あゆみ