マイホームを新築する場合、土地探しからする方も多いでしょう。
希望するエリアで条件に合う土地を見つけても、場合によっては擁壁の新設や補強工事をしなければならない場合があります。
擁壁の役割とは何か、また、擁壁をつくるのに費用はどの程度かかるのかなど、さくら事務所の矢野雅稔さんに教えてもらいました。
また、擁壁の必要性や種類、土留めやブロック塀などの違いを解説します。
擁壁とは?その役割と法的な定義とは?
新築する際にどのような場合に擁壁が必要なのか、役割について法的な定義に基づいて解説します。
擁壁の役割とは?
擁壁とは、傾斜地など高低差がある土地に建物を建てる際に必要になる壁状の構造物です。
擁壁の具体的な役割は、以下のとおりです。
【擁壁の役割】
● 斜面の土をせき止める
● 洪水による水害を防ぐ
● 地盤を強化して崩落リスクを防止する
擁壁は、傾斜地を安定させるために必要であり、滑りや土砂崩れなどを防ぐ役割があります。川沿い・海沿いの地域では、洪水や高潮から陸地を保護するために設置されます。
傾斜地でなくても、建物を建てる敷地が道路よりも高くなっている場合などに擁壁が必要になることがあります。建築基準法では高さが2mを超える擁壁をつくる場合は建築確認申請が必要となっているため、一般的には擁壁というと大きなコンクリートの構造物をイメージされることが多いと思いますが、2m以下の擁壁もあります。
各自治体によって、規定は異なりますが、家を建てる土地と道路などの高低差が2m以上など大きい場合は、条例などによって擁壁をつくることが義務付けられているため、隣地と高低差のある土地の購入を検討する場合は、自治体などに確認をするのが安心です。2mを超える擁壁の新設が必要な場合は、擁壁の工作物申請を行ってから建物の建築確認申請をするため、擁壁をつくる必要のない場合よりも、家の着工までに時間が必要になります。
また、申請が必要ない2m以下の擁壁でも、安全性は重要です。強度不足などで、後々トラブルにならないよう、小さな擁壁の場合でも、建築会社などときちんと相談して、構造上問題のない安全な擁壁をつくるよう注意しましょう。
建築基準法における擁壁の定義
建築基準法では、擁壁を以下のように定義づけています。(第19条4項)
【擁壁の定義】
- 傾斜地や高低差がある土地に新築する場合に擁壁を設置する必要がある
- 敷地内の排水に支障がない場合・防湿の必要がない場合はこの限りではない
- 各地方自治体が定める高さに新築した場合擁壁を設ける必要がある
擁壁がある家を購入、建築する際の注意点
擁壁がある家を購入・新築する場合はいくつか注意点があります。具体例を挙げると、以下のとおりです。
【擁壁がある家を購入・建築する際の注意点】
- すでに擁壁がある土地では耐久性を確認する:国土交通省では30~50年と定めている(参考:土工の耐用年数について)
- 事前に地盤調査を行う
- 隣地との境界線について確認しておく
- ひび割れや変形など劣化について確認しておく
既に擁壁がある場合は、建設時期や状態について事前に確認しておきましょう。また、擁壁が「適格擁壁」か「不適格擁壁」かについても確認しておく必要があります。
適格擁壁かの確認
建築基準法が制定される前に作られた擁壁や、検査済証の紛失によって適格擁壁だと判断できない場合は、擁壁を新設する必要があります。その場合の費用は、自費で負担しなければならないので、必ず適格擁壁かどうかを確認しておきましょう。
擁壁が適合かどうかは、検査済証によって確認しましょう。多くの場合、担当している不動産会社に問い合わせをすると確認できます。
また、各自治体でも検査済証の確認は可能です。その際は、地方自治体の公式サイトに問い合わせ方法が掲載されているので、担当する課に問い合わせましょう。
新しく擁壁を建設する際は、以下の流れでおこないます。
【擁壁を新設する場合の流れ】
1. 建築基準法に基づく工作物の確認申請をおこなう
2. 確認済証の交付を受ける
3. 擁壁の新設
4. 確認検査機関の検査後、検査済証の交付を受ける
参考:建築基準法第19条4項
新設された擁壁でも、検査済証がなければ安全性は認められません。そのため、必ず確認検査機関の検査を経て、安全性を証明しましょう。
擁壁の確認申請が必要なケース
建築基準法では、2mを超える高さの擁壁を新設する場合、確認申請をしなければなりません。申請は、各自治体の窓口にておこないます。一部の自治体では、公式サイトで申請に必要な書類がダウンロードできるため、事前に用意しておくとスムーズです。
東京都都市整備局の書類をもとに、概要を説明します。
確認申請書(工作物)をダウンロードして必要個所を入力のうえ申請しましょう。書類には、工作物の区分が記載されています。
不明点がある場合は、窓口にて申請方法を確認しながら記載するとよいでしょう。
確認申請が不要なケース
「擁壁」は、一部確認申請が不要なケースがあります。
建築基準法では、以下の法律に該当する場合に不要になります。
- 宅地造成及び特定盛土等規制法:宅地造成等工事規制区域内において都道府県知事の許可を受けている
- 都市計画法:都市計画区域又は準都市計画区域内の開発行為に対し都道府県知事の許可を受けている
- 特定都市河川浸水被害対策法:浸水被害防止区域内の開発行為に対し都道府県知事の許可を受けている
- 津波防災地域づくりに関する法律:特別警戒区域内の開発行為に対し都道府県知事の許可を受けている
また、これらの法律に該当する「建築物」では、いずれも確認申請が不要になります。
擁壁の種類と㎡あたりの費用について
宅地造成等規制法施行令第6条では擁壁は“鉄筋コンクリート造、無筋コンクリート造又は間知石練積み造その他の練積み造のものとすること”とされていますが、自治体によっては条例などでも規定されています。
「擁壁の素材として、広く使われるのは鉄筋コンクリートです。そのほかにはコンクリートブロックや石積みのものもあり、これらも法律に則ったものであれば施工することは可能です」
種類によっては、不適格擁壁になり新設が必要になる場合もあるため、注意しましょう。
コンクリート擁壁
近年使用されることが多い、コンクリート擁壁。大きく分けると、以下の2つの種類があります。
【コンクリート擁壁の種類】
- 鉄筋コンクリート造(RC造):コンクリートに鉄筋が埋め込まれている
- 無筋コンクリート造:鉄筋が使用されていない
耐久性と耐震性に優れている擁壁で、1㎡あたりの費用目安は3万~5万円程度です。
鉄筋コンクリート造(RC造)
鉄筋コンクリート造は、コンクリートに鉄筋が埋め込まれている擁壁で、無筋コンクリートに比べると強度が高く耐久性に優れています。また、擁壁の種類は以下のように分けられます。
【コンクリート擁壁の種類】
● L型擁壁
● 逆L型擁壁
● 逆T型擁壁
鉄筋コンクリートの擁壁で多いのはL型擁壁というものです。L型の場合は道路からすぐの場所に擁壁をつくることができるので、敷地を広く使うことができます。
L型擁壁が一般的ですが、土地の条件によっては逆T型擁壁を採用する場合もあります。例えば、道路に面する部分に駐車スペースをとり、その背後に擁壁をつくる場合など、道路や隣地との境界から擁壁をつくる位置にある程度ゆとりがある敷地の場合には、逆T型擁壁が採用されることがあります。
尚、斜面の上の敷地内に設置されることが多い擁壁ですが、下の敷地の事情で擁壁をつくる場合は、下の敷地に擁壁を設置するため、その場合は逆L型の擁壁になることもあります。
無筋コンクリート造
無筋コンクリート造は、鉄筋を使用せずに作られるコンクリート擁壁です。
無筋コンクリート造擁壁には以下のような種類があります。
【無筋コンクリート造の種類】
● 重力式擁壁
● もたれ式擁壁
重力式擁壁は、鉄筋コンクリートよりも分厚いことが特徴です。
擁壁の重さによって、地盤を支える役割をしています。
もたれ式擁壁は、土に対してもたれる形に設置される擁壁です。
ブロック擁壁
ブロック擁壁とは、一定間隔でブロックを積み上げ、コンクリートによって固めた擁壁のことです。
種類は大きく分けて、2つあります。
【ブロックの種類】
● 間知ブロック
● コンクリートブロック
宅地造成等規制法の施行令第8条規定では、いずれも積み込めるブロックは5mまでと決まっています。仮に5m以上積み上がっている場合、現行法では5mを超える部分を撤去することで、適格擁壁になります。
費用は、1㎡あたり3万〜10万円程度です。
間知ブロック
間知ブロックは、ブロックを水平や斜めにして積み重ねていく擁壁です。おもに高低差がある住宅地に使用されており、宅地造成等規制法に基づき、5mまで積み上げが可能です。
また、間知ブロックを設置する場合は、水抜き用のパイプを設置する必要があります。
石積み擁壁
石積み擁壁とは、石を積み重ねてつくる擁壁のことです。多くの場合、現行法では危険性や安全面を考えて違法だったり不適格擁壁だったりしますが、例外もあります。
おもな種類は、以下のとおりです。
【石積み擁壁の種類】
● 大谷石積み
● 練石積み
● 空石積み
古い土地では、一部使用されていることがあるため、擁壁がある家を購入する場合は注意が必要です。
練石積
練り石積は、モルタルやコンクリートをブロックに練り込んで積み重ねる方法です。
空石積みに比べると、モルタルやコンクリートが接着剤になるため、安定性があります。
現行法では安全性の観点から、練積み造の擁壁は5m以下と決まっています。
5mを超える建築をした場合は、超えた分を撤去することによって、擁壁として適用されます。
擁壁工事にかかる費用は?
費用は擁壁の大きさに加え、周辺の道路環境にも左右される
擁壁の新設にかかる費用は高さや面積にもよりますが、数百万円になることもあります。
「価格は、擁壁の高さによって変わります。例えば、3mタイプのもので1㎡7万円程度です。また、擁壁自体の価格に加え、擁壁をつくる際には土工事(掘削工事)が発生するため、その工事の費用なども必要になります。
土工事にかかる費用については、現場によって異なり、大きな擁壁になるほど運び出すものも、運び込むものも多くなるので、運搬費などはその分多くかかります。さらに、道幅が狭く大きな重機などが入れないようなケースも同様です。
擁壁をつくる費用は、擁壁の大きさだけでなく、つくる場所周辺の道路環境などに大きく左右されると考えておきましょう」
分譲地の場合は土地代に擁壁の工事費用が含まれていることが多い
新設するには高額な費用が必要になる擁壁ですが、分譲地の場合は土地の価格に擁壁の工事費用も含まれていることが一般的です。
「広い土地を区画整理して販売しているような分譲地の場合、擁壁ができて、上下水道が完備された状態で引き渡しということが多いです。ただし、宅地として販売されている土地の中には、すでに擁壁がある場合でも擁壁は古く、契約締結後につくり直しが必要になるということを条件に売り出すようなケースもあるので、契約前に必ず確認が必要です」
検討している土地に擁壁がすでにあれば、新設をしなくて済むという訳ではなく、つくり直しや補修工事が必要なこともあります。すでに擁壁がある場合は現行の建築基準法を満たした擁壁であるという検査済み証の有無を必ず確認しましょう。
検査済み証がなく、擁壁のつくり直しが必要となると、その分の費用がかかることになるため、費用面について納得した上で、土地の購入をする必要があります。
擁壁と土留めやブロック塀の違いとは?
擁壁と土留めやブロック塀は、それぞれ違いがあります。
そこで違いについて解説したので、参考にしてください。
土留めとの違い
擁壁と土留めは、以下のように異なります。
【擁壁と土留めの違い】
● 擁壁:土砂の崩壊や流れをせき止める構造物
● 土留め:土砂の崩壊や流れを防止すること
擁壁は土砂をせき止める構造物であるのに対し、土留めは崩壊を防ぐために土を留めることを指します。いずれも、土砂の崩壊防止をするという点では共通しています。
ブロック塀との違い
擁壁とブロック塀は、役割が大きく異なります。ブロック塀は、擁壁のように土砂崩れを防止する役割はなく、以下の役割があります。
【ブロック塀の役割】
● 境界線の明確化
● 防犯対策
● プライバシーの保護(目隠し)
規定では、ブロック塀は2.2m以下で設置しなければなりません。
強度や安全面の問題から、擁壁としては認められないため注意が必要です。
参考:擁壁に関わる法律
擁壁の新設や築造替えに対し、さまざまな法律が制定されています。住宅を新築する際や、すでに建設されている家を購入する際に、法律に対して少しだけ理解しておくだけで、擁壁に対する見方が変わります。
参考までに関連する法律を紹介します。
【擁壁に関わる法律】
● 宅地造成等規制法
● 都市計画法
● 建築基準法
いずれも、擁壁に対して大きな関わりがある法律です。
宅地造成等規制法
宅地造成等規制法とは、宅地造成(土留めや土砂崩壊などの工事)に対して、必要な規制をする法律です。
擁壁についても、宅地造成等規制法で定められており、以下が該当します。
【宅地造成等規制法によって定められていること】
● 擁壁の種類の規制(例:鉄筋コンクリート、コンクリート造、練積みなど)
● 各自治体の崖条例に関する規制
● 擁壁の高さについての規制
使用されている擁壁が、現行法で使用できるかどうかを確認できる法律です。
都市計画法
都市計画法は、都市を健全に発展させる目的で制定されている法律です。
擁壁は、高低差がある土地に安全に住宅を新築するうえで必要不可欠であり、都市計画の一環としてもつくられます。
【都市計画の一環としてつくられる擁壁の例】
● 斜面の安定化
● 地震や大雨などの災害時の土留め
※都市計画法第33条1項第7号
擁壁を設置することで、地盤沈下や土砂崩れ、崖崩れなどの災害を防止できることがあります。
建築基準法
建築基準法では、擁壁にかかわらず建物を建築するうえでのさまざまな法律が制定されています。擁壁については、以下の項目が定められています。
【建築基準法における擁壁について】
● 建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない(第19条4項)
● 2mを超える擁壁は工作物とみなされ確認済証・検査済証が必要(第2条、第88条等)
建築基準法は、建物を安全に建築するための法律です。
スーモカウンターでできること
擁壁工事が必要な土地に家を建てたいという場合、そのエリアに詳しかったり、擁壁工事の経験が豊富な建築会社などに依頼するのが安心です。一方で、どのように建築会社を探せばいいのか、自分たちだけで情報を集めるのはなかなか骨が折れるものです。
注文住宅の新築・建て替えをサポートしているスーモカウンターでは、土地選びや建築会社選びについての無料講座や、家づくりにまつわる不安や悩みをアドバイザーに相談できる個別相談などを行っています。個別相談では、具体的に検討しているエリアに詳しい工務店やハウスメーカーなどを紹介してくれますし、相談は何度でも無料です。
また、もし今購入を検討している擁壁工事が必要な土地以外にも選択の幅を広げるのであれば、土地選びや、資金計画についても気軽に相談できるので、スーモカウンターのアドバイザーに話してみるのもいいでしょう。住まいづくりで気になること、不安なことがあれば、スーモカウンターを活用して、家づくりを一歩進めてみてはいかがでしょうか。
監修/さくら事務所(擁壁とは?その役割と法的な定義とは?、擁壁がある家を購入、建築する際の注意点、コンクリート擁壁、ブロック擁壁、石積み擁壁、擁壁と土留めやブロック塀の違いとは?、参考:擁壁に関わる法律)